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DCコミック原作映画の最高傑作との呼び声高い『ダークナイト』、【夢】の世界観を見事に作り上げたSFアクション大作『インセプション』、相対性理論に基づいたタイムトラベルモノの傑作『インターステラー』など、脚本、映像、共にハイクオリティで生み出し続ける鬼才クリストファー・ノーラン監督の出世作となったミステリー映画。 保険の調査員をしていたレナードは、ある日、強盗に妻を強姦されたうえに殺害され、助けようとした自身も犯人に殴打されたショックで頭部を損傷し、記憶が10分間しか保てない前向性健忘症を患ってしまう。妻の復讐を果たすためにレナードは、ポラロイドにメモを書き、体にタトゥーを刻みながら犯人の手掛かりを追っていく…。 この映画、主人公がいきなりある男を殺す場面から始まる。「一体何故この決断に至ったのか?」を時間軸を逆行しながら辿っていくというもので、要するに、起承転結の「結」から「起」へと展開されるのだが、その「起」の部分がちゃんとオチになっているのが凄い。この実験的で複雑な構成が本作の最大の魅力であり、難解映画と言われる所以でもある。ただ、確かに細かいシーンすべてを理解するには2、3度観る必要があるが、しっかり集中して観れば1度で大筋の内容は把握できると思う。 本作は、主人公が記憶を失うまでの10分間のパートが繰り返されるのだが、あるパートで感じた“違和感"や“謎"がまた別のパートで解かれることで、「これはこういうことだったのか」というカタルシスを何度も味わえる、言わば【伏線を回収し続ける映画】なのである。この巧みなストーリー展開のおかげで、2時間全く飽きることはなく、最初から最後までずっと引き込まれる。ジョン・Gの正体、サミーのエピソード、登場人物たちの目的、物語が進むにつれて徐々に真実が明るみになっていき、ラストにはあっと驚かされるようなどんでん返し。そしてすべての真相を分かりきった上で再度視聴すると、また違った視点での面白さがあるというのも本作の魅力の1つである。一度目では気づかなかった伏線や真意を改めて確認することで新たな発見ができる、【リバース・ムービー】としても楽しめる。 ただ、かなりの集中力が要されるのも事実で、観終えた後に疲労感に襲われるかもしれないが、自分はそれを優に越える【満足感】を得られた。この映画を観て、クリストファー・ノーランは天才だと確信した。
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