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星ゆたか

星ゆたか

2 years ago

3.5


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I Care a Lot

Movies ・ 2020

Avg 3.6

2022.12.28 アメリカの法廷・後見人制度がもたらす 悲喜劇。暗愚な利権で他人の財を貪る女性と、闇取引で私欲を脹らます悪人が交差対決した時の物語。 裁判所・医療・福祉が結託し、認められた後見人制度。 認知症などで、個人の判断能力がなく、介護保護の必要性ありと医療関係者が認定し、裁判所が後見人を認める。すると法的権限を駆使し、後見人は、私財のある老人を、資産管理名目で掌握。法手続した上で介護施設に“監禁状態”で強制入所させる。外部の人間・身内さえも一再接触できない、スマホも取り上げられた。 そして法で定められた後見人がその公を盾に、入所維持管理費として。勝手に財産・邸宅を売りさばき現金化してしまう。その一連の動きは驚きで、従わなければ、警察同行で無理強いするのだから恐ろしい。日本の治安レベルでは考えられない。 彼女の管理室の壁に掲げられた後見人対象の老人の顔写真の一人一人はもう人間でなく、金づるの物件対象にすぎない。ただ私見だが。 このある種の“人生の勝ち組”(親の相続の場合もあるだろうが、中には人のためせっせと一生頑張って築いた財産を、認知症の理由で他人に盗られてしまう人もいるのかも)の顔でもあるはず。それを一色単に“金づる”という物体に見てしまう所に、欲深い人間の浅はかさがある。 こうして私腹を膨らませている後見人マーラの悪女が、新たに担当した老婦が身寄りが無いはずなのに。何故かロシアンマフィアと関係を結ぶ(義理の法的親子)女性だったからいつもと違う流れとなった。 果たせるかな社会の裏で隠匿した財源を積むロシアンマフィアの男との対決ドラマになってゆく。 それまで冒頭からこの後見人悪女のやりたい放題のペースで話が進められ、観客の思いはこの彼女の動きを止める対決人間の登場を待ちわびる気分になっている。 普通なら悪人の業績を制止するのは警察であったり、法の裁きを裁定する裁判所だが。ここでは出発の病院の医師の診断から、すでに後見人が必要とする彼女側の取り決めで動いているから。それはない。 それでは、彼女に対する人間は正義の側の人間かそれとも? さぁそこで現れたのが同じ悪人の人間だ。つまり悪女対悪人の対決!。 この悪人も同じように、悪のおいしい所を欲深く望む人間だ。 だからマフィアの用意した弁護士は、法廷にことをあらばめる前に、50万ドルであのマフィアの老婦人だけ介護施設から出所させる“取り引きを後見人・悪女に提案。 他の同様の老人の扱いには世間には“公表”しませんよ(こちらもマフィアの悪人だし)と。 しかし彼女は老婦人の銀行の貸金庫に謎のダイヤの原石が閉まってあったのを把握。(もっとこれは金になる話だと。)1000万ドルなら話に乗ると強気の答えで、相手の提案を跳ね返した。 この辺に彼女のこの世は真面目にフェアに生き抜けない社会とする、それまでの女一人でノシアガッテキタ過去の生き様が読みとれる。 裁判所も彼女の用意した資料で“言うとうり”の裁断。 そこでマフィアの悪人が出した凶行手段。 まず認知症と診断を出し後見人の必要を上げた女医さんを、“謎の死”で消す。 この“脅し”に恐怖を感じ。彼女らは緊急避難行動をとる。 けれど次に後見人マーラの女性パートナーを闇討ちで半殺しに、そしてマーラには酒飲み運転事故死を装い、湖水に車ごと沈める計画の実施を。 しかし強靭的生き抜く行動力で、この難局に立ち向かい、瀕死の壁を彼女は乗り越えた。そして同じく死なずにすんだパートナーと貸金庫から奪ったダイヤを持って逃げる生き方、追われる怖さにびくつく方法より、勝負に掛けて見ようと反逆の攻勢プランに乗り出す。 最初悪女の生き様に同調できなかった観客心理が、このヒルマナイ女の言動にボクシングなどの、悪役対悪役の格闘技興奮の有り様に変容してゆく所が、この作品ならではの特徴だ。 ただこの反転攻勢に出る前に、あれだけ公の後ろ楯があった後見人が、マフィアの攻撃から逃れるように、姿を隠す展開で、介護施設や警察の動きの描写がまったく無いのは明らかに“手落ち”。 最後にマフィアと共謀し後見人制度を更に拡張し、時代の寵児のようにテレビ報道されるなら、なおさらのことだ。惜しい!さらに欲を言えば。 例えば介護施設の中の老人で、正義の鉈(なた)を振り落とす気骨ある人間が、あのマフィアの婦人と協力し抵抗し後見人を少しでも見返す描写などを加えても、やられっぱなしである焦燥感をそいでくれたかも。 ヒロインを演じたロザムンド・バイクさん(1979年英国出身)は、この役を『観客に支持されない悪役に成りきること』としたそうだ。そしてまた『アメリカの様々な制度が彼女のような人間に利益を与えている』とも話す。 またマフィアの親分を演じたピーター・ディンクレイジさん(1969年米国出身)を始め、部下役もそれぞれどこか愛嬌があり、あまり怖さ強さで徹底してない、弱さの隙間のある演出は喜劇タッチで、その老婦人のダイアン・スイーストさん(1948年米国出身:ウディ・アレン作品で二度のオスカー)の演技共々楽しめる。 監督は年齢不詳のJ(ジョナサン)・ブレイクソンさん。主な作品三作目のオリジナル脚本。社会性と娯楽性を兼ね揃えた今後も期待の監督か?