
星ゆたか

Harry and Tonto
Avg 3.5
2022.7.18 【対談レビュー*No-1】亡き友人を偲んで。 最も純粋で真面目に映画を観ていた20代の頃知り合い、一緒に映画館に出向いたり、喫茶店☕で語たっり、森はつじさん を思い出しながらこの作品を振り返りたいと思います。 (星)ポール・マザースキー監督の映画。あの森さんとも行ったことのある、隣町の清流劇場で「ヤング・フランケンシュタイン」(1975)メル・ブルックス監督作品との併映で見たんです。どちらも大感激でしたよ。 (森)あっそう。まだ星さんと出会う前でしょ。確か一緒にこの劇場行った時は、誰だったか忘れちゃったけど監督さんの作品と上映終了後に解説会なんてあった。良心的で意欲的な映画館でしたね。 他に一緒に見に行った映画で一番印象的なのは、あの東宝系の映画館での黒澤明監督作品の三本立だね。「用心棒」「椿三十郎」「隠し砦の三悪人」 面白かったねぇ! (星)そう、そう‥‥。 それにしてもこの映画、旅好き・猫🐱好きには絶対外せないでしょう。 主演のアート・カーニーは並みいる俳優を抑えてアカデミーの主演オスカーを取るは。日本のキネマ旬報でもベストワンに輝くではと。今では少し地味で忘れがちな映画ですけど。 ライバルは「ゴッドファーザーPART2」「チャイナタウン」「レーニーブルース」などですもんね。別の作品「アリスの恋」で主演女優賞を得たエレン・バースティンも本作で、ハリーの娘役で出演してました。 ちなみにこの年の受賞式では、次の作品撮影中などで欠席者が多く、このエレンと助演男優賞のロバート・デニーロ(ゴットファーザーpart2)は代理人。出席し感動的スピーチをしたのが、このアート・カーニーと助演女優賞のイングリット・バーグマン(オリエント急行殺人事件)-主演2・助演の三度目-でした。 (森)それまでのアメリカンニューシネマの“旅”の作品は、どちらかというと、《絶望・断絶・成熟》といった選ばれしタイプの特定者の旅からでした。しかしこれは平凡で老人といっても比較的元気な人を主人公にしています。 アメリカ人にとって“旅”は、単なる観光旅行でなく、生きるための一つの手段なんですね。それは西部劇の流れからくる、“帰ることを念頭におかない旅”なんですよ。 Travel《旅》という英語はTravail(骨折り・労働・苦痛)と同意語で、旅とは「骨の折れる、やっかいな仕事をすること」だと言われます。 (星)その伝統的流れの中に最近の 「ノマドランド」(2020)などもあるんでしょうね。 物語はニューヨークのマンハッタンのアパートに住む72歳のハリーと11歳の猫のトント(人間でいえば77歳)が旅する話です。 住んでいる古いアパートを駐車場にするための取り壊しがあり、その立ち退きをしなければならなくなりました。 そこでとりあえず別の賃貸物件をあたりますが、中々ペットを飼いながらだと難しい。仕方なく息子や娘の所を訪ねる旅が始まるわけです。 (森)あのハリーの登場するシーンまでの繋ぎが洒落てるよね。 晩秋の雑踏の町の中の老人や買い物の婦人、そして路上の一枚の落ち葉の先にとら猫が歩く。首輪から伸びている革紐(今なら洒落れたリード)の先をカメラが追ってゆく。すると足元の下から上に仰ぎ見た先にあのハリーの姿。 『これは誰だ?トント』と猫に声かけながら、懐かしいポピューラーソングを歌い始めるのが日課。 でもせっかく買い物をすれば、ひったくりに遭う。『今年四度目だぞ!』 物騒で安心できない社会。 『こっちはいつもは鼻も掛けない年寄りなのに、盗みの時だけ!なんだっていうんだ。』 (星)登場してくる色々の人物がそれぞれ魅力的。ポーランド出身の彼より少し年上のリブトフスキー。 『グレーの大型車か?資本家の畜生目!』 『フォルクスワーゲン?ナチの奴め!』 と口は悪いがしかし人は良く、住む所がないなら家に来ないかと誘う。『最後に女と寝たのはいつだって?ちゃんと覚えている。最初もな、14歳の時だ』 でもそんな冗談の軽口の後。彼は間もなく死んじゃうんですよ。笑わせておいて現実の厳しさがなおさら切ないです。 (森)ハリーは最初長男のバートの所へ行きます。ここの自閉症気味の次男ノーマンとは通じる所がありますが、バートの妻とは折り合いが難しく、シカゴにいる長女のシャーリーを訪ねることに。 しかし飛行機はペットが駄目。 次に乗ったバスも車内のトイレでは猫🐱が足を突っ張ってできず、バスを止めてもらう。そして外に出したらどこかへ行ってしまう。 そこでバスもあきらめて中古車を買って、何年も前に免許更新切れしてるのにハンドルを握ります。パトカーを見て途中ヒッチハイカーのジンジャーに運転して貰いました。 (星)この後この彼女に若い頃の話をして、その流れから妻アニーと結婚する前に2か月同棲していたダンサーのジェシーに会いに老人ホームを訪ねる展開がいいですね。 痴呆気味でハリーをアレックスと呼ぶ。それでもかまわないと、踊って欲しいという彼女の手をとり踊るシーンはまさに美しいですよ。 (森)シカゴの長女(演じるは冒頭記したエレン・バーンスティン)とは、昔から口論しがちで愛してはいるが同居は難しいと認めあって別れます。 この次々と年とった親が子供を訪ねる旅は、星さんの好きな日本映画でいえばやはり小津安次郎監督の「東京物語」(1953)を思い浮かべますね。 迎えに来た長男バートの息子ノーマンはやっと少し人と話せるようになって、ヒッチハイカーのジンジャーと意気投合。二人は車で去ってゆきました。未来ある若者達です。 このあとハリーは金髪のコールガールに強引に誘われて丘の上のホテルへ。 この時「慕情」という映画の主題曲がバックに流れるのが多いに笑わせました。恋愛の讃歌ですからね。またこの辺は元気のいいお年寄りという主題もこの作品にはありましたからなおさらです。 (星)さらにこの後ハリーの次男、成功した事業が行き詰まり、すっかり自信を無くした息子を年長者らしく励まします『きっと自分の力で自分の道を築けるよ。』 そしてとうとう長旅のストレスもありトントが動物病院で死にます。 ちなみにこの“トント”をえんじた猫😺は4歳のオスで73年の秋の撮影直前にロスアンゼルス郊外からニューヨークへ送られて来たそうです。それは都会の騒音や交通状況に慣らすためだったとか。調教師がずっと撮影終了まで付き添ったとも。 他の撮影もほぼストーリーの進行に従い、大陸を横断していきました。九週間で終了。ラストシーンはサンタモニカのマスルビーチです。 最後は浜辺を駆け抜けるトントに似た猫を眺めていると、砂の城を作っている少女を見かけ近づきました。金色の夕陽が二人を包みこむ詩情あるいいラストでした。 ポール・マザスキー監督この時45歳。観客と映画の登場人物の双方に“笑いという救い”を与える作法で見せているのが印象的でした。 開巻のミディアムショットの普通の社会にいる主人公を、最後は自然の純粋性に帰一している姿のロングショットで温かく見つめましたね。 これは私事ですが、あの浜辺の少女のような出会いは、「ペーパームーン」(1973)という映画を数年前に見る前にあったということと。〔ついでにこの作品で親子共演したライアン-テイタム・オニールが(前年テイタムが最年少助演女優賞)この年のオスカー受賞式にプレゼンターとして出席。〕 またこの映画を見た数日後に当時飼っていた愛犬🐶(ジロー)が車に跳ねられ死ぬという、映画と私を結びつける出来事があり、いっそう忘れられない作品となりました。ハリーのように動物に話しかけ、それなりに意思の疎通ができることの素晴らしさも痛感してましたからね。 あの頃若かった私も次第にこの映画の登場人物に近い年代になってきました。精神的なゆとり、自分とは違う世代との交流での振る舞い、心がけを早く亡くなった森さんの分も、これからの時代の流れを、把握しながら生きて行きたいと思います。 ありがとうございました。