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監督は小津安二郎、脚本は監督と野田高悟が担当して製作された1956年の日本映画 ・ 杉山は鎌田から丸ビルの会社に通勤しているサラリーマン。結婚後8年、妻の昌子との仲は倦怠期である。退社後は、毎朝同じ電車で通う通勤仲間たちと麻雀やパチンコにふけるのが日課となっていた。帰りの遅い夫に不信を抱く昌子は、実家の母に愚痴をこぼしていた…。 ・ 夫婦の倦怠期、夫の不倫など、当時の新しい夫婦像を小津監督の感性で映画にした作品。現在まで続く普遍的な夫婦問題でもあるから、いま観ても古くささを感じない。夫が亭主関白だったりするのは古いかもしれないけど、なんだかんだで女性の方が強いのは、いつの時代も同じである。 ・ 携帯もない時代に、黙って外泊でもされたら疑うのも仕方がない。夫婦の会話が無ければ真実など闇の中なのだ。それでも妻は、「全部わかってる」という恐ろしいことをいう。そんなことを言われた男は、チビるしかない。小津監督にしては、生々しすぎる作品だが、夫婦というものを巧みに描いた作品だと思う。 ・ 杉山を演じた池部良の男っ振りと浮気相手の金魚を演じた岸恵子の華やかさが目立っていた。妻の昌子を演じた淡島千景も、手塚治虫の「リボンの騎士」のモデルになっただけあって、浮気される妻とは思えない美しさだった。 ・ 笠智衆や杉村春子などの小津作品の常連俳優たちが、脇を固めているから磐石だ。脇役で登場しても必ず印象に残るんだから、尊敬してしまう。笠智衆演じる杉山の先輩が、夫婦というものの在り方を教えてくれている。杉村春子はちょっとやかましいお隣さんというお馴染みの役柄。 ・ この作品は夫婦だけでなく、当時のサラリーマンの哀愁も描いているから面白い。当時のサラリーマンの苦悩や日常を観れるのは新鮮だと思う。小津作品の優しく洒落のきいた台詞と共に描かれるサラリーマンと夫婦の物語。やはり小津安二郎監督の作品は面白かった。
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