
星ゆたか

The Silk Road
Avg 2.9
2023.7.31 『中国での大ロケーシヨン、超製作費、大量の前売り動員、配収45億円で1988年度の最大のヒット作に』が昭和最後の年の当時の映画界ニュースに。 原作は井上靖(1907~1991)さん。 敗戦後の私小説.心境小説が主流だった日本文学に。 時間と空間を通した物語性を回復させ、詩情溢れる文体・表現によって昭和文学の方向性を変えた作家とされている。 この「敦煌」(59)辺りから中央アジアを舞台にした西域ものと呼ばれる歴史小説を手掛けた。その取材を兼ねた、中央アジア、中東、欧米、ソ連などの旅を重ね、その紀行文なども多いという。 監督は佐藤純彌(1932~2019)さん。6月に「未完の対局」(1982)を観賞し レビューを書いた。 その日中国交正常化10周年記念映画の成功もあっての映画化か。 『幅広いジャンル、莫大な予算、豪華なスタッフ・キャストの作品を制作したことから』 《ミスター超大作》の異名をとる。 「未完の対局」では日中混合の俳優・スタッフによるものだったが。 本作は資料・撮影地等の関係の中国側の協力はあっても、中国の歴史上の人物のモデルを、全て日本人俳優が演じている。 物語は11世紀、中国、宋の時代。 《科挙》の試験に。 〈当時中国北西部に勢力を拡大しつつあった“西夏”への対策に答えよ〉に落ちて。 腐っていた主人公・趙行徳(ちょうぎょうとく)が。 その西夏に希望を求めてシルクロードに旅立つ。 その途中で漢人部隊に出合い、その隊長の主王礼に漢字の書ける所を認められ、直属の部下に。 ウイブル(回鶻:かいこつ)族の王女ツルピアを捕虜に連れてきたが。 趙行徳とツルピアは恋に落ちてしまう。 西夏の皇太子・李元星に仕えていた朱王礼は、その西夏の言葉の取得に。 趙行徳に一年の約束で敦煌に出かけさせる。 ツルピアに必ず戻ってくるから待ってて欲しいと約束を。 この西夏の言葉は。 〔テンブン〕という古代中国で使われていた一種の造形文字で。 その後、装飾や祭礼の為の特殊文字、あるいは印章の分野で生き残ったのこと。 趙行徳はその文字と漢語の意味を同時に示す辞書作りに、更にもう一年の足止めを食うことに。 そのため帰ってみれば、ツルピアは皇太子・李元星に見初められ、嫁として式を上げることに。 しかし趙行徳との未来に絶望し、式の最中に投身自殺を。 その辺の独裁政治にも嫌気を持った隊長の主王礼は、反逆のノロシを上げる。 その後趙行徳は敦煌で、莫大な文化資料の保存の仕事につくが。 その地まで戦禍の火が及ぶにあたり。 書籍・美術品などを守るために。 敦煌郊外にある〔莫高窟:ばっこうくつ〕に運び込みます。 これが900年後の1900年に。 莫高窟の発掘調査が行われ、貴重な歴史的財産が数多く三万点以上発見されましたが。 M.A.スタインやペリオによりイギリス、フランスなどに持ち出され。 中国国内には一万点しか残されなかったという。 この敦煌石窟とは4世紀から約千年間、元の時代まで彫り続けられた。 南北1600メートルに渡って700の石窟に彩飾された壁画が有名で。 仏教美術として世界最大の規模を誇るとされている。 その歴史的景観と意義の重さが、それまでの度々の映画の大半を占める、スペクタルな戦争絵巻を上回る印象な事柄は。 結果的には映画の意図する感慨無量を 薄めてしまったのではないだろうか?。 日本人の作った中国人の戦国絵巻の “偽物”が。何故か急に空々しく思え。 本物の歴史的重厚さの表象の前に、 懸命に真似たコピー面を軽く剥がされたかのように。 俳優陣では。 隊長の朱王礼役の西田敏行(1947年生まれ)さんは。 最近の“釣りバカ”シリーズしか知らない世代には。 とてもシャープな動きと容貌に驚かされるのでは。 「植村直己物語」(86)や本作で。 五大陸の長期ロケで“極地俳優”の異名もある人だ。 趙行徳役の佐藤浩市(1960年生まれ)さんも若々しい。 李元星役の渡瀬恒彦(1944~2011)さんもいいね。 そしてツルピア役の中川安奈(1965~2014)さんはこれがデビュー作品でしたね。