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2020年19本目は、ピーター・ジャクソン監督が長年の歳月を経てついに完成させたドキュメンタリー『彼らは生きていた』。 ------------------------------------------------------------ これは「CGの技術が凄い」とかそんな平素な言葉で語れる作品ではなく、あらゆるスタッフの労力を集結して行われた「歴史的プロジェクト」です。昔のフッテージ撮影は技術も貧相なので、ところどころで映像のスピードが違ってカクつくのが当たり前、しかもキズや汚れによって写りも非常に悪い。それを復元するだけならいざ知らず、ここまで完璧な色や音を付けて元に戻すなんて信じられない話です。 ------------------------------------------------------------ 当時の制服や銃など全ての資料を集めて忠実に色をつけ、泥を踏む足音から戦車の駆動音・銃の引き金を引く音に至るまで、何もかもを再現しています。ですから皆さん、ご覧になる際はひとつ覚悟をして頂きたいと思います。こうした労力と引き換えに見る者が引きずり込まれる世界は、本物の「地獄」です。戦争を疑似体験することの恐ろしさを、ここまで生身にダイレクトで伝えてくる作品が今後出てくるかどうか。 ------------------------------------------------------------ 本作を見て思い知るのは、当時の兵士にとって戦地で死ぬことがいかに当然だったかです。兵士たちが訓練を受け、楽しげに会話や食事を交わすシーンの後に悲惨な光景が繰り広げられ、さっき生きていた人が次の瞬間には死んでいく…そんなことの繰り返しに頭が真っ白になります。きっと「死の意味」を意識する間なんて一瞬も無かったでしょう。年端もいかない少年たちも大勢犠牲になったのに、20年後には同じことをしているなんて本気で狂っています。 ------------------------------------------------------------ 今まで遠い昔の、遠い異国の話であったはずの「戦争」が、まるで日常の出来事だと錯覚してしまうようです。シリアやレバノンでは今日も多くの命が失われているわけですから、戦争に対する実在感は常に持っておかなければならない感覚だと、改めて反省する良い機会になりました。
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