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ダニエル・クレイグがボンドを演じることになった第一作。これまでに5人の俳優がボンドを演じてきましたが、ボンドといえば男の理想像と言ってもいい象徴的存在で、そのイメージは例え俳優が交代してもある程度同一に保たれてきたものでした。ところが本作を見たとき、今までのボンド像をぶち壊されたかのような物凄い違和感を覚えました。 007になったばかりの新米エージェント時代を描く、というストーリー上致し方ない部分はあるものの、本作のボンドは無鉄砲で血の気が多い青二才。上司の命令を無視し好き勝手に振る舞って、女に溺れていくその姿は、かつてのジェームズ・ボンド像から大きく逸脱するものです。 ここに製作陣の、『カジノ・ロワイヤルはシリーズ第21作ではない。全く新しい第1作目だ!』という強いメッセージを感じました。これまでのファンにとっては抵抗を覚える部分もかなり多いかもしれませんし、正直私自身もあまり好きにはなれない映画です。しかしその反面で本作をシリーズ最高傑作と位置付ける人がいるのも頷けます。 この大胆な刷新があったからこそ、ここから『慰めの報酬』『スカイフォール』『スペクター』と続く、ジェームズ・ボンドという一人の男の濃密な人間ドラマが始まったわけですし、今となっては英断でしょう。シリーズの新しい方向性を決定付けた記念碑的作品と言っていいと思います。
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