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原題の「Supernova」は「超新星」の意味。 宇宙のはるか遠くで爆発した無数の惑星から降り注ぐ物質によって人間の体は形成されている…そんな逸話から。 近い未来に命を失う一人の男のさみしさや威厳を感じる上質な作品でした。 20年来の付き合いになるゲイカップルのサム(コリン・ファース)とタスカー(スタンリー・トゥッチ)。 タスカーの病が深刻になり、2人はキャンピングカーでイギリス北部、湖水地方に旅に出る。 自分の正常な姿があるうちにこの世を去りたいタスカー。 一方のサムは「ずっと一緒にいたい」と望む。 そんな2人の心の機微を描いたヒューマン映画です。 テーマは最近良くある「尊厳死」ですが演じる2人の気持ちの描写が心に響いてきました。 ピアニストのサムと作家のタスカー。 それぞれ充実した20年間を過ごしていたことがわかる。 ハンドルを握るサムと助手席に乗るタスカーのたわいないやり取りや軽い口論。 そして必ずサッチャー批判も入れるのですね。 ゲイカップルに対する矯正云々の政策も遠い過去ではない。 しかし2人は周りの家族や親友に理解されながら幸せに過ごしてきたのです。 タスカーの病は「認知症」。 サムと2人で様々な文化を楽しみ充実していた彼にとっては記憶や尊厳が失われる事が耐えられない。 サムがタスカーのノートを見つけて開いたシーンはたまらなかった。 小説家として美しい筆記体で書かれたノートは段々と文字にならなくなっていた。 そんなタスカーが「Dear SAM」と何度も何度も書いてある紙片…涙が出そう。 タスカーの覚悟を知ったサムが、それでもずっとそばに居たいと願う気持ちはわかる。 そしてタスカーの気持ちも充分にわかる。 ラストは観る者に委ねた印象。 映画のファーストカット、裸で抱き合うようにベッドに眠るシーンを思い出してしまった。 今作のお二人は実際も20年来の親友。 始めは演じる役が反対だったそうですが、自然とこのサムとタスカーのキャストになったらしい。 コリン・ファースの相手を心配する姿や、どこか品があって(病気のために)弱さのあるスタンリー・トゥッチ。 初老のゲイカップルを見事に演じた役者魂を感じました。 思い出を辿る湖水地方の風景も美しく、哀しいけれど素晴らしい作品でした。
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