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『少年は残酷な弓を射る』で話題をさらった女流監督リン・ラムジーの最新作で、今回もまたカンヌで激賞を受けたと言うのですから、いよいよその才も本物といったところでしょうか。 長尺の原作小説がありながら、それを僅か90分にまとめきる手腕には確かに驚かされます。主人公ジョーの虐待を受けた過去やトラウマによるPTSDの苦しみを幾度となくフラッシュバックさせつつ、少女ニーナとの魂の邂逅が綴られていくのですが、全く躊躇を感じさせない話運びです。恐らく、監督自身の頭の中に描きたいものが明確に形として浮かび上がっているのでしょう。 ただし、やりたいことが溢れすぎてしまったのか抽象的で不可解なシーンも幾つか見られ、かなり玄人向けの一作になっていることは否めません。「あらすじ」を読まないと多くの人は何が起こっているのかサッパリわからないのではないでしょうか。ニーナ視点のドラマパートがほぼない為にジョーの独演会となってしまい、二人が心を通わせる演出に欠けている点もバランスの悪さを感じます。 とはいえ、不気味な音楽の使い方や陰鬱でショッキングな絵面のインパクトなど、もう完全に自分の世界観が出来上がっているあたりは見事と言う他ありません。次回作も非常に楽しみです。
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