Comment
"映画好きの間でカルト的な人気を誇る、法に代わって悪を制裁する処刑人を描いた 「エクスタミネーター」" バイオレンス映画というものは、まことに不思議な、そして奇妙な魅惑に満ちています。 我々、人間の体にひそむ原始の血の流れが、暴力表現に妖しく共鳴するのかも知れません。 この映画好きの間で、カルト的な人気を誇る「エクスタミネーター」は、我々の原始の血を騒がせる、そんな迫力とインパクトを持った映画です。 ヴェトナム戦線から死の瞬間を潜り抜けて、ニューヨークへ帰還した若い白人青年と黒人の元兵士が主役。 二人は額に汗して働いているのですが、街のチンピラたちにからまれ、白人青年を助けた黒人は再起不能の体にされてしまいます。 怒った白人青年(ロバート・ギンティ)は、マグナム銃でチンピラたちを撃ち殺してしまいます。 そればかりではなく、売春婦をいじめるゲイの男や、変態政治家をも殺し、街のギャングたちも殺していくのです。 この映画の題名の「エクスタミネーター」とは、"処刑人"の意味。 街の平和を乱すチンピラども、警察では逮捕出来ない者たちを次々と処刑して行くのです。 映画を観ている分には、日頃のストレス解消にもなり、胸がスカッとする思いがします。 しかし、警察もただ黙っているわけではなく、刑事がこの処刑人を追いかけ、更には、こうした事態が自分の次期選挙に不利になると考えた大統領は、CIAに命じて闇から闇に葬り去ろうとするのです。 この処刑人の白人青年だけでなく、その真相を知る刑事までをも殺そうとするのです。 本当に処刑しなければならない"悪"というのは、一体どこにいるのだろうか? 現代の"悪の構図"をこの映画は、我々観る者の感覚に直接訴えかけてくる凄まじい暴力表現で描こうとします。 そして、この映画のもう一つの魅力は、何と言ってもニューヨークの実景。 それはむしろ主役の一つとも言えると思います。 戦争の影も、資本主義の歪みも、全て抱え込んでいる大都会ニューヨーク。 この生きて躍動している世界一の大都会は、様々な悪も、明日への希望も、全てのみ込んでいるような気さえしてきます。 このダイナミックに捉えられたニューヨークの実景は、現代の様々な歪みを無言のうちに、我々に語りかけてくれます。 激増する犯罪、処刑人への共感は、このような現代において益々高まっていくのかも知れません。 しかし、気をつけなければいけないのは、その処刑人への共感、讃美は、明らかに、ある意味、ファシズム的なものに繋がる危険性を含んでいるという事です。 暴力表現への"無意識の陶酔"と同様に、我々の心の中にファシズム的なものへの傾倒が潜んでいるかも知れないからです。
1 likes0 replies