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【3.11を知る映画】 あの日福島原発で何があったのか、まさに命がけで大惨事を防いだ男達を知る、特別な存在価値のある映画。その臨場感もさながら、沢山の事実を伝える本作は、3.11と復興五輪を控えるまさにこのタイミングでこそ見るべき一本。 ◆概要 原作:門田隆将著ノンフィクション書籍『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』 監督:「空母いぶき」若松節朗 出演:佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、安田成美 ◆ストーリー 2011年3月11日、巨大津波に飲み込まれた福島第一原発は全電源を喪失する。炉心溶融(メルトダウン)によって想像を絶する被害を防ぐため、伊崎利夫をはじめとする現場作業員や所長の吉田昌郎らは奔走するが……。 ◆感想 あの震災の最中で、報道では自分達に届かなかった原発の現場の人達、その命がけの選択と葛藤が胸を打つ。その事実を伝えるジャーナリズムとして、震災を風化させないフックとして、存在価値のある映画だと思う。震災の被害状況や原発の是非に無駄に触れず、うまく作った印象。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆命がけ メルトダウンを止めるために、命がけで建屋に向かう作業員。ゴム靴も溶ける程の高温の中を、放射線を浴びながらバルブへ向かう。いかにそれが大変な事だったのかが伝わってきた。近隣住民が避難しようとも、現場を守り続けなければならない責任の重さ。責任者は俺だと、残した部下の元へ静止を振り切って戻る伊崎達の姿が胸を打った。 ◆対比 原発の暴走抑制と現場の命を最重要に考える所長と、俯瞰で見て判断する東電役員と首相達。これは極めて映画的な善と悪の対比であり、演出上、脚本上、誇張した部分もあるような気がする。そう思えるほど、あれが事実だとするならば、もはや罰せられるレベルの悪行だと思う。所長の言う通り、“だったら現場に来いよバカヤロー!”だ。(首相は現場に来て逆に迷惑だったが) ◆家族 伊崎と確執のあった娘・遥香。避難所で東電のジャンパーも着れない前田の家族。それぞれが抱える家族が描かれることで、前述の命がけであることの重みが一層増していたと思う。何気に伊崎の父が、厳格で寡黙ながら、クシャクシャな笑顔で伊崎を迎えた終盤のシーンには落涙した。 ◆風化 正直、原発が爆発した事も、記憶が薄れかかっていた。映像として目の当たりにすると、当時いかに自分が他人事としてそれを見ていたのか、恥ずかしくなる。この映画には、福島、ひいては東日本を命がけで守った50人の存在を伝えるジャーナリズムと、当時の現場の過酷さを伝え、震災を風化させない特別な存在価値があると思う。3月11日がまもなくやってくるこのタイミングで本作公開を設定した事は、間違いなくそんな狙いがあるはずだ。 ◆ 復興五輪を最後のメッセージに添えた本作。コロナウイルスで開催についてにわかに噂が出始めているが、是非この復興という意味でも、無事な開催に漕ぎ着けてほしい。 ◆トリビア ○新作の日本映画の中では初めて、ドルビービジョン,ドルビーアトモスを用いた制作作業を日本国内で完結した。ドルビーシネマでも上映予定。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/Fukushima_50_(映画)) ○ 撮影は東京・調布の角川大映スタジオに中央制御室と緊急時対策室が細密に再現されて行われた。(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200307-00000003-ykf-ent) ○ 撮影は順撮り。監督は、出演者のひげがだんだん伸びて顔が汚くなり、疲労感が重なっていくところを狙ったと語った。(https://www.sankei.com/entertainments/news/200305/ent2003050006-n1.html)
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