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【映画館の椅子が沈む映画】 警官2人で協同して潜入捜査するハラハラ感。それだけでもライトに楽しい映画でありながら、本筋は今もはびこる白人至上主義への圧倒的な警笛。軽く座った映画館の椅子が後半ずっしり沈む。 ◆概要 第71回カンヌ国際映画祭グランプリ、第91回アカデミー賞6部門ノミネート、脚色賞受賞作品。原作はロン・ストールワースのノンフィクション小説『Black Klansman』('14)。監督は「マルコムX」のスパイク・リー。出演はデンゼル・ワシントンの実子ジョン・デビッド・ワシントン、「スター・ウォーズ」シリーズのアダム・ドライバーら。製作には『セッション』のジェイソン・ブラム、『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールも名を連ねる。 ◆ストーリー 1979年、街で唯一採用された黒人刑事が白人至上主義の過激派団体<KKK>(クー・クラックス・クラン)に入団。黒人であるためKKKと対面できず、電話を自分、同僚の白人刑事に対面を担当してもらい、2人で1人の人物を演じながら、潜入捜査を進めていくが……。 ◆感想 潜入捜査がいつバレるのかハラハラ続き、そして心にズバズバ刺さる映画後半のメッセージがとてつもなく強い。軽い姿勢で見始めた映画が、見終わるとずっしり、しばらく席から離れられない感覚になる映画。 まずは前半、黒人であるという条件下で電話を自分、対面を白人警官で“バディ潜入捜査”する事になる展開がライトに面白い。ウソ発見器や言い間違い、何度もバレそうになるハラハラ続きの展開は文句なしで面白い。 しかしながら節々でたっぷり尺を取る演説シーンやその表現方法に、次第にこの映画が内包する重々しいメッセージの予兆が垣間見え出す。 ◆以下ネタバレ◆ 冒頭のカーマイケルによる演説では、まだ白人警官が黒人を殺している事に触れつつ、黒人聴講者のそれぞれの表情を重ねる映像表現。演説の重みのある言葉と共に、映像からまさに黒人としての当事者たちの顔、目から怒りや悲しみが伝わってくる。 後半の黒人集会のシーンでは、“知恵遅れ”の友人に起こった悲劇が如実に語られ、痛々しいほどの気持ちにも。さらにKKKによる白人至上主義集会をそのシーンに重ね、“ホワイト・パワー”“ブラック・パワー”の対比するシュプレヒコールで、問題の根深さを露骨に描く。ちなみにここで“アメリカ・ファースト”のセリフやトランプ大統領の実際の映像も使用していたのは、反トランプな映画の表現だったことは間違いない。 この映画はそこだけに留まらず、ユダヤ人のフリップ警部にも焦点を当て、その差別意識への自我の揺さぶりにも迫る。ウソ発見器を目前にしたフリップが、ホロコーストの存在すら否定するフェリックスに、つい反論してしまうシーン。その後ロンとの会話で、ユダヤ人としての自我が揺らぐシーン。この映画が描く差別は、単に黒人に対するものだけでなかった。 そして何より、この映画がノンフィクション小説を原作としている重み。エンドロール前の実際の映像、特にパレードに突っ込む車の映像のとてつもないパンチ力。この映画が1971年の出来事を舞台とする“昔の物語”として終わらせるのではなく、2017年となった現代でも根強く残る至上主義、差別主義を見る者にぶん投げてくる、これ以上ない強いメッセージになっていたと思う。 アカデミー脚色賞は、そんな今昔にはびこる差別意識を映画と実際の映像で繋ぎつつ、重みのある演説を効果的に並べて全体としてとにかく強いメッセージに形成した、そんな理由だったのでは。
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