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若い下女は虎の前の生肉よ! 紹介されて何気なく雇った下女はスーパーメンヘラ女だった!紹介した女と下女の共謀なき共犯によってアレよアレよと弱みを握られ、平穏だったブルジョワ家庭が瞬く間に地獄と化す…。そんな感じの「家なんて買わなきゃ良かった…やっぱ賃貸よ!」なサイコホラー。 キムギヨン傑作選ボックスにて。階段映画と言われてるだけあって、ずっと階段でワチャワチャしてて笑う🤣足を怪我して松葉杖ついてる姉が必死に階段登ってるとこをバカにして泣かす弟くんの非道っぷりが序盤から遺憾無く発揮され、下女の部屋へと続く扉を意味もなく蹴りまくり、全く人として扱おうとしない姿は地味に本作最恐キャラの一角だと思う。 妻は伝統的な韓国の服装なのに対し、夫や子どもたちは西洋的な服装を身に纏う。西洋文化が流入し始めた時期でもある60年代の韓国にとって、そういった文化の混在した家族内部の描写が面白い。 そして、下女はタバコを好み、(途中から)黒いドレスのような如何にも悪女感のある西洋的な服を着る。今のご時世こういう書き方すると色んなところから怒られそうで怖いのだけど、“あくまでも作中時代の描写として”、韓国の伝統的価値観の体現でもある妻と、流入する西洋的価値観の体現である下女が、一家の大黒柱である夫を取り合うという、家の中を国に見立てた核心的価値観の奪い合い・移ろいとして描き出しているのを見ると、確かにポンジュノは本作(というよりキムギヨン)を反復しているのだなとわかる。 出口を無くすことで取り込んでいく流れが侵略としての意味合いを強く感じさせるし、自分たちのものより(外形的に)発展しているように見える文化へと惹かれてしまう根源的な欲望を、若い下女に抱いてしまう男の性欲と同化させて描いたモチーフ選択のセンスも冴えてる。それをウエットなドラマの裏でドライに進行(侵攻)させる慎ましさは、最近良く見られるメタファーとは呼べないような直接的で大袈裟な表現を圧倒してるように感じる。 確かに展開そのものにしても西洋と韓国との関係性における分析という点でも、本作と『パラサイト』との共通点は非常に多いのだけど、本作においてキムギヨンが憂いた韓国に流入する西洋的価値観への約半世紀後の検証あるいはアンサーとして『グエムル』が機能してしまっているのも面白く感じた。「若い下女は虎の前の生肉よ!」という妻の言葉も、価値観における関係性への示唆として読み解くとより意味深に映る。 そして、ネズミとリスの表裏一体。檻に見立てた家の中で必死に働き続けるリスだった彼らが、下女により叩き潰される存在であるネズミと化していく。家の中で展開する物語に対して、下女のみが家の外から中を覗く視点を持っているのがリスでありネズミである彼らの存在を強調している。正直ちょっと期待しすぎた感はあるのだけど、面白かった!露骨なヒッチコック『断崖』オマージュも見られたし、サスペンス演出が手堅くて好き。
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