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キネ旬 1 位の映画である。評論家の先生方から選ばれたということもあって、若干斜に構 えて観たのだが、意外や意外、芸術的に尖がったところなどまるで無い、極めて大衆的で、 非常に面白いミステリーであると思った。 甚だ独りよがりで申し訳ないが、私は「戦場のピアニスト」とか「オリバー・ツイスト」の ポランスキーは、ポランスキーではないと思っている。あのようなヒューマニズムあふれる 巨匠ではない。やはり、「チャイナタウン」とか「フランテック」、そして「ローズマリーの 赤ちゃん」に代表される、極めてポップな、「ミステリー」もしくは「恐怖」の演出家であ ると思う。 本作は、まさにミステリー・サスペンスの王道を行く傑作であり、ポランスキーの面目躍如 たる代表作といって間違いないと思った。 キーワードは、「ゴースト」であろう。 主人公はまさしくゴースト・ライターであり、映画の中では名前さえ表せられない演出をさ れている。そして、「前任者のゴースト」に導かれ、対象者の闇の部分へと入り込み、つい にラストでは誰が「本当のゴースト」であったのかを知る・・・というしびれる展開。 また、主人公の疑惑は、ラストまではっきりとせず、それを象徴するかのような曇天と雨天、 カーナビ、写真などのミステリー感を強調する小道具、会話の中に出てくるアイロニーの効 いたジョーク、残酷な場面をわざとカメラからはずすセンスなどの、非常に「ヒッチコック」 的な演出が評論家の先生方に受けたのだろうと思う。 アダムは、トニー・ブレアがモデルだとも思われるが、そんなことは抜きにして、久しぶり に本格ミステリーに酔った。非常に良かった。
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