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全米ビルボード誌のビデオ週間売り上げ1位を記録したSFアニメーション映画。 電脳化やサイボーグの技術が発展した西暦2029年。テロなどの犯罪を防ぐ組織「公安9課(通称“攻殻機動隊”)」に所属する草薙素子は、国際手配中の天才ハッカー・通称「人形使い」が日本に潜伏しているという情報を得る。素子は同じ公安9課のメンバーであるバトーやトグサと共に捜査を開始するが…。 とにかく世界観の緻密さに驚いた。原作は未読だったので、ほぼ説明なく連発される「ゴースト」「義体」「電脳化」「光学迷彩」などの“攻殻用語”には若干困惑したが(だんだん分かってくるけど)、その一つ一つの設定が科学的、論理的な意味合いで成立している。そして、その機能がもたらす「作用」だけでなく、それに伴う「反作用」まで想定されているのが凄い。例えば、「電脳化」という設定。これは人間の脳にマイクロマシンなどを埋め込む、または脳そのものを機械に変えてしまうという技術を意味するのだが、これには脳が直接コンピュータネットワークに接続できるようになることで、通信や情報の視覚化が可能になるという「作用」がある一方で、逆にその電脳をハッキングし、身体をコントロールする、記憶を操作するなどのサイバー犯罪が起きてしまうという「反作用」もある。ここまで綿密に世界観を構築する士郎正宗の想像力は凄まじいです。 公安9課が「人形使い」を捜索するという刑事サスペンス、逃走犯や多脚戦車とのアクション、そして主人公の草薙素子が自分のアイデンティティを確立するドラマ、この3つの要素を80分ほどの尺にまとめ上げた押井守の手腕も見事と言う他ない。確かに、キャラクターの性格や全体的な雰囲気、ストーリーさえも原作とは異なっており、かなり押井守のオリジナル要素が強いらしく、原作ファンによる批判もあると思われる。しかし、本作は一つの映画として完成度が高いと自分は思います。 専門的な用語が乱立するゴリゴリのSF映画でありながら、「人とは何か」という哲学的な問いかけを含んでいる、まさに【日本版ブレードランナー】です。
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