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ビリー・ホリデイ(1915~1959) 39年から59年にかけて活躍した黒人の有名なジャズ歌手。 特に黒人差別の告発の歌「奇妙な果実」を歌ったこと、これが国民を惑わせるとの理由で。 アメリカ政府が“彼女に何をしたか”の映画だ。 未婚の母のもと生まれ、養護施設に5歳まで預けられ、母親の営む店で15歳ぐらいまで売春させられたというビリー・ホリデイ。 18歳の時音楽プロデューサーに歌声が気に入られ、ベニー・グッドマンやカウントベイシー楽団と共演し歌手デビュー。 その歌声に悲惨な生い立ちからくる不思議な魅力が認められ、 《カフェソサエテイ》の専属歌手に。 この店は当時としては画期的で、進歩的自由・文化人の集まる所で、黒人・白人の区別なく列席できる数少ない店だったらしい。 「奇妙な果実」という歌は、ブロンクスの高校教師のエイベル・ミーアポル夫妻が、(内密な)共産党委員で。 1930年の新聞記事に二人の黒人がリンチで、木に首吊りされている写真に、強烈なショックを受け彼によって書かれた歌。♪南部の木々には奇妙な果実がある♪と始まる。 それがカフエソサエテイのオーナーに知られ、ビリーに歌うように勧めた。 それまでラブバラードを歌っていた彼女は、最初はあまり気が乗らなかった。 しかし自らの父親が黒人で在るがゆえに、病院をたらい回しのあげく亡くしていた過去もあり。 また店でこの歌を歌ったら、あまりにも反響があるので、後にはいつもステージの最後に。 照明を暗くしスポットライトをあてる特別な演出で歌ったとされる。 しかしそのことが黒人人種のリンチを禁止する〈公民権運動〉を扇動する危険な言動と見たFBIは、ただ歌を歌うだけでは法的に捕らえられないので。 〈麻薬取締局〉ハリー・アスリンガー長官に。ビリー・ホリデイの常習性のある“麻薬所持常用”の線で落とし入れる計画を実施させた。 映画では何故彼女が、中々麻薬の世界から抜け出せない理由なども描かれる。 幼い頃から強い男に惹かれ、例え度々の暴力を振るわれても、性愛に従ってしまう。 また同じ黒人世界の中でも忍従せばならぬ日常(金の稼げる女にはヒモがツキヤスイ)に、そんな弱さを忘れるためにも麻薬の甘美の官能は取り外せない。 その麻薬の為に治療病院や、逮捕され刑務所(一年以上)にも入れられたりする。 しかし大衆は彼女の歌を支持し、カーネギーホールでの実演(48)や、欧州遠征興行(54)なども成功させた。 彼女を最後まで追い詰めた麻薬局長官のハリー・アンスリンガー氏が、あのジョン・F・ケネデイ大統領から表彰される実写も、映画の途中投入された。 何とこの人70歳で退官するまでトップだったというから驚きだ! 何しろビリーが死のとこにいる病院で亡くなった彼女の足に手錠をかけて逮捕したというからね。 映画では彼女のことが好きで、しかし黒人人権向上のため、この麻薬長官の手下でオトリ捜査にも協力したジミー・フレッチャー氏の描写も多く取り入れている。 このハリー長官をギャレッド・ヘトランド。 またジミー役にはトレヴァンテ・ローズ。あの「ムーン・ライト」(16)で大人になった主人公を演じた人。 もともとは全米陸上ジュニア選手権で短距離の優勝選手だったという。精かんな感じがそう言われてみればウナズケル。 またまた俳優といえば。 ビリー・ホリデイを演じオスカー候補にもなったアンドラ・デイさん(84年生まれ)。 R&Bシンガーでその名前。“デイ”はビリー・ホリデイの愛称“レデイ・デイ”の“デイ”から付けられたという位の繋がり。 ちなみにビリー・ホリデイにエラ・フィッツジェラルド、サラ・ボーンで、御三家と言われたとか。 監督はリー・ダニエルズさん(米国出身:59年生まれ)。 原作はイギリス人のヨハン・ハリさん。 「麻薬と人間100年の物語」の中のビリー・ホリデイ関連章から。 “ビリー・ホリデイの映画”というと、 まず思い出されるのは。 72年の「ビリー・ホリデイ/奇妙な果実」シドニー・J・フューリー監督の作品。 あのアメリカン・ソウルポップの偉大な歌手・ダイアナ・ロスさんの熱演(オスカー候補)が忘れられない映画。 またこれは伝説的語り話になっている。 我が愛好する昭和の歌姫ちあきなおみさんが、89年と90年に演じた。 ビリー・ホリデイの伝記を一人芝居にした《LADY DAY》なども凄いらしい。 記録映像でもいいから是非見たいな!。 さて音楽的にその魅力という点で、歌詞の時代における価値を除いては。 私にとって、ボーカル音声や技巧から導かられる魅惑の世界、声の響きが生み出す至福の時間という所では。 ダイアナ・ロスさんやちあきなおみさんの方が惹かれるかなぁ。 衣装はパオロ・ニードさんだが。 プラダとコラボレーションして手掛けられたその当時の、また現代的なデザインも含めて55点が楽しめました。 実はこの映画を見る前に、「BILLE ビリー」(19)というドキュメント作品も見たんですが。 これはリンダ・リプナック・キュールさんというジャーナリストが10年間に及ぶ、ビリーの生存関係者にインタビューするカセットテープが120本以上出てきために、制作された作品らしいです。 実写ならではの趣があり、本作品と合わせて見るのもお勧めですよ。 70年に取材を始め最後は“謎の死”で未完のままだったとか。 まだ32歳で遺書もない。 身内によれば警察の捜査も曖昧で、これは誰かによって“消された死”だと思っていると。 なおさらアメリカという国の広くて深い闇の部分を感じました。
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