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凄い映画であるが、「強烈な原作」が存在するので、それに押しつぶされた感がある。そこのところが非常に惜しいと思う。 原作は、時系列を敢えてバラバラにし、語り手を替えた一人称の章の羅列である。従って、読み始めはとっつきが悪いが、段々と明らかになる事実がこれまた強烈であることから、サスペンス色が濃く、読むのを途中でやめることができない魅力を持つ。 映画は、映像が視覚を否応なく誘導するので、時系列をバラバラにすると非常に恣意的なってしまって却って解りにくくなる。だから物語の発端から、時間を丁寧に追ってゆく。これについては全体的には成功していると思う。登場人物、特に主人公の「花」の変化を無理なく追える利点がある。 しかし、当然だがサスペンス性が薄れる。特に、東京にシーンを移してからの失速が残念だ。重要な登場人物である「小町」や、「田岡」、「尾崎」の東京における「行動」や「特殊能力」は重要なアイテムなのだが、それらが全く描かれないのは拍子抜けだ。 また、原作における「大塩さん」と「花」の対決は、非常に衝撃的な事実と論理の積み重ねにより驚愕するのだが、映画ではそこを「原作を読んでください」みたいな省略がなされる。映画の始まり付近で「淳悟」により匂わされるだけというのは、いくらなんでも不親切であろう。その代わり、二階堂ふみによる圧倒的な「叫び」により、非常に演劇的で素晴らしい経験を与えられるのはあるが・・・。 ともあれ、主役二人のキャスティングはこれ以上のものは考えられないくらいであり、流氷という寒々とした「白」を思わせる背景に、この物語のテーマでもある「血」の「赤」によるコントラストは凄まじささえ感じる。 長尺にはなってしまうが、150分クラスの大作にしても良かったのではないかと思ってしまった。
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