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【無視できない映画】 “虫”と“恋愛”が巧みに交わるオリジナリティに溢れた物語。出演者はほぼ4人で、とっ散らからず心の機微をじっくり味わえる。“虫”の気色悪さは映像クリエイター監督作品としてむしろ誇るべき、一級の“無視”できない一本。 ◆トリビア ○撮影時、小松菜奈は林遣都を「ケント・デリカット」というあだ名で呼んでいた。(https://moviewalker.jp/news/article/1052603/) ○映画と原作では結末が違う。(https://news.yahoo.co.jp/articles/b21894633e3e08b867050f83e727514f2c5248d1) ○林、小松、監督ほか現場での話し合いで、ラストシーンはさらに脚本とも全く違うものになった。(https://www.cinematoday.jp/interview/A0008141) ○劇中、ジェットコースターのシーンでは、苦手な小松菜奈のため何度も撮り直しがあり、林遣都が具合を悪くした。(https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-1181452/) ○劇中CGが多用されているが、林が水を浴びるシーンは、ワカメや嘔吐物的なものを混ぜたホース車での実写。(https://www.cinematoday.jp/interview/A0008141) ○2人は初共演。同じ事務所だが会った事もなかった。(https://eiga-board.com/posts/11545?p=2) ○林遣都の好きな恋愛映画は『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(2013年)、小松菜奈は『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)(https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-1181452/) ○林遣都演じる高坂という主人公は元々マスクをつけて生活しているが、撮影はコロナ禍直前の2020年3月に終わった。(https://news.yahoo.co.jp/articles/b21894633e3e08b867050f83e727514f2c5248d1) ◆概要 【原作】三秋縋(みあきすがる)「恋する寄生虫」(2016年) 【脚本】「眉山」山室有紀子 【監督】柿本ケンサク(大河ドラマ「青天を衝け」のタイトルバック映像も手掛けた映像クリエイター) 【出演】林遣都、小松菜奈、井浦新、石橋凌 【主題歌】Awich「Parasite in Love」 ◆ストーリー 極度の潔癖症から誰とも人間関係を築くことができず孤独に生きる青年・高坂賢吾は、視線恐怖症で不登校の少女・佐薙ひじりの面倒を見ることになった。自分自身の弱さを隠すための露悪的な態度に共感し、次第に惹かれ合った2人は初めての恋に落ちていくが……。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆映像美 ひじりを見る街の人の目、汚物の波が押し寄せる部屋とバス、パテからうねり出る虫。視線恐怖症と極度の潔癖症の可視化は、見ているこちらもまさに気を失うほど気色が悪い。さすがの映像クリエイター監督な映像力だった。ひじりの登場シーンの独特なサウンドのBGMもカッコ良かったし、13人の劇伴アーティストを迎えたというBGMも、通してどれも耳残りのするオリジナリティ溢れる音だったと思う。 ◆小松菜奈 俗世からある意味自分を隔離するためのひじりのヘッドホン。それを奪われたひじりが発狂する演技や、母が自害した池(2月の撮影で極寒だったらしい)で高坂への想いを爆発させる演技。倒れた高坂を足蹴にするいつも冷静なひじりとの演じ分けがしっかりしていたし、彼女自信が備え持つどこか不思議でちょっぴりダークなイメージが、今回の役にピッタリだったと思う。 ◆明暗 そんな演じ分けに合わせてか、変わる映画の明暗。ずっと暗かった映像(特に高坂の部屋)も、ラストシーンが眩いほど明るかったように(高坂がカレンダーをめくった部屋には日差しが入り、とても明るくなっていた)“寄生虫”から解放される前後で明るさでも変化をつけた映画の工夫があったと思う。 ◆ラスト ライトアップショーが観客の騒乱に変わるラスト。社外的弱者としてしか生きられず、なぜ生きているのかを自問自答し続けた高坂とひじりは、街の破壊を目論む鬱屈した気持ちを抱えていた。タイトル通りの“寄生虫”から解放された高坂は、まだ未完成のそれこそ“ウイルス”を解き放ち未遂にする事で、過去の自分と本当の意味で決別し、本来の自分を取り戻した。観客には火花でも、高坂には花火だった意味ではまだマイノリティという皮肉は残りつつ、まさに2人にとっては眩いほどの花火のような美しい人生が待っている、そんな前向きなラストシーンだったと思う。
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