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軽々に使うべきじゃない言葉だと思ってるけど、あえて使っちゃおう。"傑作"ですよ。でも、どういいかを言葉で説明するのが難しくて、それはつまり、映画としての純度みたいなのが高いってことじゃないかな。 戦前の広島から物語は始まり、呉にお嫁に来る少女すずさんと観客が過ごす10数年間。最初はのどかで楽しかった日常に戦争の影が差してきます。戦時下の生活をユーモラスに描き、物語にとっつきにくさはありません。70年余り前の日本人が、今とはいささか異なる信条で生きていた点も興味深いです。前半はすずさんの可愛らしい天然っぷりを愛で、後半は何度となく涙が。劇場内も笑いと涙で包まれ、いい雰囲気でした。 そもそもの物語が素晴らしいのは原作の手柄だけれど、あの高密度の原作を適切に剪定することで、映画としてずいぶんスマートになりました。その分、原作のある種の複雑さ、奥行きも失われましたが、映画としては大正解ですね。あっ、オミットされた部分は僕は結構好きな箇所だったのですが、その分、ラストに素敵なおまけが付いて、2回目を観たくなる仕組みです。これ、原作既読組は特に嬉しかったですよね。著しい都合の良さはあるけど、許せてしまうし。 作り手は原作に最大限のリスペクトを捧げ、執念を感じさせる巨大な熱量で映画にしています。例えばそれは、驚くほど違和感のないのんをはじめとするキャスト陣の声であり、原作の線を端正に拾った丁寧なアニメートであり、コトリンゴの静かに寄り添うような音楽であり、今時のシズル感はないけれど、精緻かつ柔らかなタッチの背景であり、時にドキッとする臨場感のある音であり、物語はゆったりなのに、原作のディテールをしっかりと落とし込む抜群のテンポ感であり(テンポが良すぎて一瞬混乱することも)。 戦争が愚かで悲しいことは、誰もが知識で知っています。そういうことを、手触り感覚にまで手繰り寄せてくれて、様々なことを大いに想像する手助けになる映画です。決して反戦を声高に叫ぶではなく、構えて観る映画でもない。笑えて泣けて、また笑えて、そして、"普通"であることを僕たちが考え続けるために、とても大切で重要な映画です。 うわ、すっごく長くなっちゃった、汗。。
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