
てっぺい
4.0

The Fabelmans
Movies ・ 2022
Avg 3.6
Mar 03, 2023.
【繋がる映画】 スピルバーグの自伝的映画。映画愛に溢れつつ、映画に光と闇がある事を説いてくる重厚さ。至る所にセルフオマージュが散りばめられ、その後彼が生み出す大作に繋がる逆算のワクワク感が、ラストのワンカットで味わえる。 ◆トリビア ○スティーブン・スピルバーグは、2017年に母、2020年には父を亡くしており、本作は彼の過去と現在への鎮魂歌でもある。(https://www.vogue.co.jp/lifestyle/article/film-review-fabelmans/amp) スピルバーグは、ただ衣装やセットの装飾、俳優達を見つめて撮影中に何十回と泣いていた。(https://www.banger.jp/news/87052/) ミッツィがピアノで演奏する曲や、重要な場面で使われたクラシック曲には、スピルバーグの実母が気に入っていたものが使用されている。(https://moviewalker.jp/news/article/1126232/) ○ 本作は、第95回アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ)、助演男優賞(ジャド・ハーシュ)、作曲賞、美術賞、計7部門にノミネートされた。また、第80回ゴールデングローブ賞では最優秀作品賞(ドラマ)&最優秀監督賞を受賞した。(https://www.vogue.co.jp/lifestyle/article/film-review-fabelmans/amp) ○ジョン・フォード役でデヴィッド・リンチ監督(「ツイン・ピークス」など)がカメオ出演。スピルバーグからの三顧の礼で出演承諾後、その条件として撮影前の2週間、出演衣装で生活する事を伝えた。(https://maharishi.or.jp/lynch-to-play-john-ford/) 〇サミー役を演じたガブリエル・ラベルはオーディションで選ばれた新星。スピルバーグが10代の頃に実際に使っていた様々なカメラの使い方、編集機や編集方法、映写機の使い方などの習得に苦労した。またスピルバーグに合わせてカラーコンタクトで自身のブラウンの瞳の色を変えた。(https://lp.p.pia.jp/article/news/262826/index.html) ○ サミーと同じく、スピルバーグも両親の離婚を経験している。スピルバーグの過去作『未知との遭遇』(1977)や『E.T.』(1982)などで父親のいない家庭が描かれていることは、その体験に基づいていると自身も認めている。(https://screenonline.jp/_ct/17610606) 〇引っ越し先でミッツィが猿を飼うエピソードは実際にあったこと。実際に鬱気味になったスピルバーグの母リアが猿を飼うことで癒しを得ていた。(https://screenonline.jp/_ct/17610606) 〇コロナ過でずっと家に居て、死や年を取ることについて考え、恐怖を感じたスピルバーグ。家族と過ごしながら自分にできることは何かと考え、自分の両親、家族についての物語を作るということを決心した。(https://eiga.com/amp/news/20230224/9/) 〇フェイブルマンとは、本作脚本のトニー・クシュナーが考案した名字。"Fabelman" の "fabel" はドイツ語で「寓話、作り話」、つまり「作り話の人、架空の人」と察せられる。(https://imi-nani.fenecilla.com/fabelmans/) ◆概要 スティーブン・スピルバーグが、映画監督になるという夢をかなえた自身の原体験を映画にした自伝的作品。 【脚本】 スティーブン・スピルバーグ 「ウエスト・サイド・ストーリー」トニー・クシュナー 【監督】 スティーブン・スピルバーグ 【出演】 ガブリエル・ラベル 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」ミシェル・ウィリアムズ 「THE BATMAN ザ・バットマン」ポール・ダノ 「インディペンデンス・デイ」シリーズ ジャド・ハーシュ 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」ジュリア・バターズ 【音楽】 「E.T.」ジョン・ウィリアムズ(本作でスピルバーグと28回目、50周年のタッグ) 【公開】2023年3月3日 【上映時間】151分 ◆ストーリー 初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になった少年サミー・フェイブルマンは、母親から8ミリカメラをプレゼントされる。家族や仲間たちと過ごす日々のなか、人生の一瞬一瞬を探求し、夢を追い求めていくサミー。母親はそんな彼の夢を支えてくれるが、父親はその夢を単なる趣味としか見なさない。サミーはそんな両親の間で葛藤しながら、さまざまな人々との出会いを通じて成長していく。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆映画撮影 初めて見た映画に魅了された少年は、8ミリカメラを与えられ映画撮影に没頭。彼の作る映画は家族を笑顔にし、友人達との大切なコミュニケーションツールに。そんな、サミーの天職が早々に身につくのも束の間、映画はサミーに別の一面を見せ始める。意図せず母の不貞を暴き、意図せずクラスメイトの自尊心を傷つけたサミーの不遇の姿はまさに“芸術は孤独をもたらす”ボリス伯父さんの言葉の通り。映画を作る事には表と裏、光と闇がある事が伝わって来た。またとても印象的だったのが、戦争映画でサミーが演者に演出を施すシーンでの、思わず涙が溢れる姿。監督というものはただ映画を撮影するだけなのではなく、一つ一つのシーンに想いを込めて、感情移入しながら演者と共に映画を作り上げていくものなのだと、あのシーンでずっしりそれが伝わって来た。 ◆オマージュ サミー少年が夢中になって撮り続けた列車と車の衝突は、スピルバーグの長編デビュー作「激突!」におそらく繋がるセルフオマージュ。前述の戦争映画で、部下達を亡くした事の責任感と懺悔はまさに「プライベート・ライアン」のミラー大尉の姿と重なる。サミーがユダヤ人である事で受けたいじめは「シンドラーのリスト」を撮る理由に十分たりえる(サミーにできた彼女が赤いドレスを着ていればなお印象的だったが)。数々のセルフオマージュを感じる楽しさもあれば、ラストのデビッド・リンチカメオ出演にも驚き。ついに映画の仕事を掴み取り、映画製作所で胸躍らせ歩むサミーが見上げる空には、巨大サメや地球外生命体、恐竜達など、その後彼が生み出す事になる名作の雲が浮かんでいるように自分には思えた。 ◆今 実父アーノルドと実母リア(20年と17年に没)に捧ぐと括られたエンドロール(スペシャルサンクスに実妹3人の名前もあった)を眺めながら真っ先に思ったのは、なぜスピルバーグが本作を今作ったのか。スピルバーグは、コロナ禍で考える時間が増え、やらないと後悔することを考えた時に家族の事を描く事が自ずと浮かんだと言う。映画の見方が多様化し、配信との同時公開や、配信のみに転じた大作映画も出始めた昨今。スピルバーグという巨匠が自らを輪郭化し放った本作は、まるで始まりの終わりであり、終わりの始まりのようでもある。いずれにしても、これからもまだまだ巨匠にはワクワクする大作を産み続けていってほしい。 ◆関連作品 「激突!」('71) スピルバーグの長編監督デビュー作品。本作でサミーがおもちゃの汽車と車を衝突させ、フィルムカメラに撮っていた経験は、この作品につながっている。プライムビデオレンタル可。 ◆評価(2023年3月3日現在) Filmarks:★×3.9 Yahoo!映画:★×3.5 映画.com:★×3.8 引用元 https://eiga.com/amp/movie/97982/