
星ゆたか

Parallel Mothers
Avg 3.4
2023.9.7 赤ん坊の取り違えをきっかけに、 年代の違う二人の母親の葛藤を。 スペイン内戦の過去の傷跡の解明に結び繋げた傑作です。 2022年『トップガンマーヴェリック」や「コーダあいのうた」などと、キネマ旬報で競いベスト3位に。 ペドロ・アルモドバル(49年スペイン出身)監督の好きな作品が、また一つ増えました。 「オールアバウトマザー」(98) 「トーク・トゥ・ハー」(02) 「バッド・エデュケーション」(04) 「ボルベール〈帰郷〉」(06) 「抱擁のかけら」(09) 「ペインアンドグローリー」(19)と共に。 とにかくこの監督の色彩の鮮やかな画面の世界観は。 何ともクッキリ、熱情的で、私にとって現代欧州絵画への憧れなんでしょうか。 それとメロドラマやポップカルチャーのスタイルを利用しては、複雑な脚本にブラックユーモアを絡めながら。 人間の欲望や情熱を、家族や個人や同性愛のアイデンティに導いてゆく作風は強烈です‼️。 俳優のキャスティングも何時もながら イイですね!。 今回もお馴染みのペネロペ・クルス(74年生まれ)さんが40歳前のヒロインに。この作品の演技で、ベネチア映画祭主演女優賞です。 もう一人の二十歳前の母役にミレナ・スミット(96年生まれ)さんは本作が二作目の期待大の注目の女優。 その彼女の母親の、女優業との両立に悩む50歳前の役に。 アイタナ・サンチェス=ギヨン(68年生まれ)さん。 このお三人は中々の美人女優さんで、それぞれの世代の魅力ですけれど。 ヒロインの同僚の親友役のロッシ・デ・パルマ(64年生まれ)さんは監督作品の常連脇役で、その特に顔立ちがまさに個性的。一見嗜好の具合ですが、性格の善し悪しで信頼も深まるのでしょう。 そう色々考えると彼の作る映画の人々の、その他の周囲の俳優は。 ある意味、“我々の日常に見かける”映画の世界の普通の人達であることに気づき、いとおしいですね。 ヒロインのスペイン内戦で亡くなった曾祖父の遺骨の発掘に協力してくれ。 また妻の回復を待って不倫関係から、再婚相手になる。 法人類学者役にイスラエル・エレハルデ(73年生まれ)さんは、本作では唯一の主演男優。 前半は取り違えのドラマ。 二人ともシングルマザーで育てる決意。 しかし母親と父親とも赤ちゃんが、見た感じ、肌の色も、どうも似てないと。年長者の母親の方が気になり。 密かにDNA鑑定のキットを手に入れて、唾液で確認して鑑定して貰うと。 どうもこの産院で同室の年の違う母親の二人の赤ちゃんが。 経過観察で出産後間もなく、別室で扱われた為に。 取り違えられたらしい。『えっ?』 その事実に唖然とする。 最初は年長のヒロインがその鑑定の結果を途中で知り。 弁護士に相談するが、病院に問い合わせせず、そのまま子育てし続けて一年後。 この二人が偶然街で再会するが。 なんと若い母親の方の(つまりこちらが年長者の)子供は“突然死”(脳の未発達で)で亡くなっていたという現実を突き立てられる。 だからますます彼女に真実を伝えられず。この若い娘が両親から自立し、一人で生活していくために。 とりあえず一緒に彼女に育ててもらって。自分はカメラマンとしての仕事を再開する。 そしてしばらくしてから本当の事を話す。 この辺はベビーシッター生活に馴染みのない日本人には、少し分かりづらいが。 映画では前半、今時の大学生のベビーシッターぶりにイライラする年長者の描写もある。 この若い母親の方は、実の母が女優業を優先したかった理由で。 幼い頃離婚し、父親側に再婚した母との間で育てられ、その暮らしに馴染まず。 17歳の時、同級生の3人に強要されて妊娠した経緯がある。 だからこの内の誰が父親か初めは分からない。 しかし間違えられて育てられていた赤ん坊の顔と、その3人の同級生の内の一人がケイタイの写真で、見てくれで“似ている”と分からせる作劇は、絵柄非常にストレート。 若い母親はヒロインとの同居で、実の母親からは教えて貰えなかった、料理や家庭の事を学びながら。 すっかり彼女を母親のように信頼し、信頼できない同年代の男どもより。心の支えにする。 そう言えば発掘に期待する人達も大部分は女性で。この映画自体、 ウーマンリブ的な勢いを感じさせる。 だからあてにならない男性より、同性の方が“愛”の対象にすら思えてくる。 この辺の微妙な女性どうしの感情もドラマを面白くしている。 そして映画の後半から終盤にかけて。 ヒロインの念願の、自身のアイデンティに繋がる曾祖父の遺骨(埋没されている現場に10人)の発掘が本格的に始まる展開に。 その調査発掘は今なおスペインで実際、続けて行われているらしいが。 右派からの反発も大きいという現実もあるとか。 そのスペイン内戦とは。 1936年から1939年にかけて。 マニュエル・アサーニャ率いる左派の共和国人民戦線政府と。 フランシスコ・フランコの右派の反乱軍との闘いで。数十万人が犠牲になっている。 ファシズム台頭という世界情勢の中で。 イギリス・フランスは不干渉政策。 ドイツ・イタリアは反乱軍を。 ソ連と国際義勇軍が政府を支援して。 国際的な戦争の様相を呈し、まさに第二次世界大戦を先行する戦争と言われています。 この映画はヒロインの40歳前後の人間が。 20歳前後の若い世代に、過去の歴史に関心を持つことが。 これからの未来を考える基礎になる大切さを訴えている作品でもある。 最後のクレジットに。 『声なき歴史などない 焼きつくし 破壊し 偽ろうとも』 『人の歴史は口を閉ざすことを拒む』 エドゥアルド・ガレアーノ(1940~2015:ウルグアイ人のジャーナリスト)と表示された。