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2020年31本目は、『ナチュラルウーマン』で昨年度にアカデミー賞を受賞したセバスチャン・レリオ監督の最新作、『ロニートとエスティ』。 ------------------------------------------------------------ LGBTブームの過熱と共に様々な映画が公開されてきましたが、これまでは同性愛者に対し差別や偏見の眼差しが注がれたり、彼らを排除しようとする悪役が登場したりと、分かりやすい対立構造が存在していました。ところが本作における悪役はむしろ教えに背いたロニートとエスティの方です。あまりに厳しいユダヤ正統派の掟に理不尽さを感じる面はあれど、一度コミュニティでの生活を受け入れた以上はそれに従わなくてはなりません(ex:エスティは日常生活においてウィッグをつけていますが、これも既婚女性は髪を剃らなくてはならない・髪を隠さなくてはならない…という正統派の教えに根差すものです)。 ------------------------------------------------------------ 我々の日常生活もまた同じように家族・会社・学校など、様々なグループに属することで成り立っており、そこでの決まりを守らない場合には罰則が与えられます。ですから、ルールに納得ができなければロニートのように共同体から出ていくしかないわけです。そんなロニートが再び舞い戻ってきた為に事態は混乱を極めます。非常に静謐で淡々とした描写ながら、「信仰」と「人権」、二つの正しさが衝突し徐々に亀裂が広がる様子が、実に端正に描かれています。 ------------------------------------------------------------ タイトルは『ロニートとエスティ』ですが、私はこの映画の主人公はエスティの夫であるドヴィッドだと思います。2人の愛を知り自分がエスティにとって1番にはなれないと知りながら、ロニートの父親の後を継いで共同体を運営していかなければならないドヴィッドは、まさに2つの正しさの狭間にいます。そんな彼がラスト、たったの一言で彼女たちを救うのです。本シーンの感動が凄まじく、それだけでも十分一見に値する作品でした。
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