Comment
真っ赤な口紅を塗った女の官能的な唇が、画面いっぱいに映し出されたショッキングなクローズアップから始まる、この映画「リップスティック」は、文豪アーネスト・ヘミングウェイの孫娘二人が出演したことで話題を呼び、当時レイプ事件をどう扱うか、社会的な関心が高まっていた状況を背景にして作られた社会劇的な作品だ。 モデル役の主演のマーゴ・ヘミングウェイが音楽教師のクリス・サランドンに犯され、強姦事件として裁判所に訴えるが、厚い法律の壁に阻まれ、裁判は男に優勢のまま進行し、しかも妹のマリエル・ヘミングウェイまでレイプの毒芽にさらされて--------。 遂に、マーゴはライフルを持って猛然と男に立ち向かっていくのだ。 この映画は、レイプ事件をテーマにした、一見、社会劇仕立てにはなっているが、ヒロインを演じるマーゴ・ヘミングウェイの強烈な、淫らな肉体的存在感に画面全体が圧倒されてしまって、かなりいかがわしい、それだけにドキドキ、ハラハラさせるような魅惑的な暴力映画になっていると思う。 男にレイプされてもビクともしないような、たくましく美しい体の持ち主で、ラストで男にライフルの銃弾をぶっ放す、物凄い迫力をみせる女に対して、レイプする男が「狼たちの午後」でアル・パチーノのゲイの妻役を演じたクリス・サランドンなので、明らかにホモセクシャルなやさ男の雰囲気を匂わせているところが、いかにも現代のアメリカを象徴しているかのようで面白い。 レイプの多発と被害者の不利な立場、という現代のアメリカの深刻な社会問題をテーマにしているけれども、描き方はあくまでもメロドラマ的に流れてしまっている。 だから、演技派のアン・バンクロフトの女弁護士が、いくら健闘しても、安手の映画という印象を拭いきれないのだ。
1 likes0 replies