Comment
私に「擬態」を見せて! 『狂覗』『生き地獄』の藤井監督によるナマハゲスラッシャー。最近だと『恐怖人形』あたりは定石をなぞった和製スラッシャーだったけれど、本作は定石なんてクソ喰らえな藤井監督らしい変化球で尖りまくった作風。だからスラッシャー・スプラッター好きな層でも好き嫌い割れると思う…。 これまで『生地獄』『怖来』『恐怖依存症』と、親と子の関係性を独自アプローチで描いてきた藤井監督だけど、本作では児童虐待をメインテーマに、「擬態」という連鎖を「らしさ」全開に描いてた。監督自身がパンフレットのインタビューで語っている通り、本作は家族すらも敵となる世界で生きるための「擬態」についての物語。 森の中のベッドで目覚めたパパ。そばには幼い息子。息子を心配することもなく速攻で怒鳴りつけるパパは、突如現れた自分の親の幻に怒鳴りつけられ、そうこうしてるうちにナマハゲが襲いかかってくる…。ナマハゲは何ものなのか、どうして自分は森の中で寝ていたのか。そしていつの間にか消えた息子はどこへ行ってしまったのか…。 このパパは息子を虐待していたのだけど、通常のホラーであればパーソナルな心的空間で行われるだろうパパなり息子なりの精神分析的事柄が、本作ではSF要素を盛り込むことでそのほとんどを寓話的空間から現実へと引き摺り出した上で行われる。 これは『怖来』でも見られた監督らしさだと思っていて、踏み込まなければテーマの深淵さと広がりを印象づけるものであるのに、「説明」によってその深淵さなり広がりなりを削ぎ落とし、観客に与える過大なイメージを自ら放棄する姿勢が好き。若手監督は自身の作品を過大に見せようとすることが多いと思うけれど、良い意味でバカにできる作品として魅せるあたり流石ベテランの貫禄! 核心となる「擬態」についても、パンフレットでも説明してくれていたし、普通に映画本編でもどういったものか全部説明してくるという親切設計。 監督の過去作でもこの「擬態」という要素は少なからず描かれていて、そういう意味では本作は集大成感があった。その中でもモチーフ的には『怖来』が一番近く、閉じ込められた部屋と脱出、ガス、防護服の職員たち、ラストのネタバラシ(窓越しのカメラ含めて)等々、既視感が凄かった。ただ、内容的には擬態先は違えど『恐怖依存症』が一番近いように思う。 この監督のもうひとつ面白いところは、しっかりしたテーマを扱いながらも、楽しませるための笑えるアホなシーンを盛り盛りに入れてくれるところ。でもそれを意味もなく唐突に…ではなくて、メインテーマを肉付けして作品自体が描こうとする範囲を押し広げることに繋がっているから、画面上で行われていることに反して、奥底にあるものはすごく真っ当。このバランス感覚も好き。
Be the first one to like!0 replies