
てっぺい

Eddington
Avg 3.4
Dec 12, 2025.
【共感が壊れる映画】 善意が人を分断し、感情を狂わせる。観る者を共感へ導きながら、その足場を静かに崩していくアリ・アスター感全開の不穏さ。パンデミックを描きつつ、今の時代だからこそ刺さる一本。 ◆トリビア ◉#二面性の怪物 ホアキン・フェニックスについて、面白く優しい人だが、ダークで激しい一面もあると分析するアリ監督。 ▷「彼ならジョーという役を充実させてくれると確信しました。この映画はいわば“共感のジェットコースター”。ジョーは最初こそ観客に好かれるでしょうが、のちに彼は観客を裏切るような行動に出るのです」 (https://bunshun.jp/articles/-/84265) ◉#1秒で生まれたジョー 撮影開始時、ジョー像をつかめずにいたというホアキン。アリ監督がふと両手を上げて「ごめん」と世界を止めるような仕草を見せた瞬間、“これがジョーだ”と直感。“世界の崩れを必死に止めようとする男”として形づくっていったと明かす。 (https://www.slashfilm.com/1910424/eddington-director-ari-aster-joaquin-phoenix-note/) ◉#裁かない演技 ジョーが重ねる“ヤバい決断”についてホアキンは「キャラクターを決して裁かないこと」を自分のルールにし、誰でも人生で間違った選択をする、という前提から出発した役作りをしたという。 ▷「ジョーの怒りや暴走の裏にある“痛み”や“自己嫌悪”を、内側から理解しようとしたんだ」 (https://www.menshealth.com/entertainment/a65437639/pedro-pascal-joaquin-phoenix-eddington-interview/) ◉ #反映されたリアル体験 ペドロ・パスカルは、テッド市長の役作りで自身のパンデミック中の孤立感や恐怖を振り返り、それをキャラクターの内面に投影したと語っている。対立する立場でも人間の信念や複雑さを丁寧に掘り下げたその役作りが、市長の生々しさに繋がっている。 (https://www.dazeddigital.com/film-tv/article/68452/1/pedro-pascal-joaquin-phoenix-eddington-interview-2025-social-media-doomscrolling) ◉#恐怖が役作りに エマ・ストーンはルイーズの役作りのため関連情報を集めるうちに、自身のSNSアルゴリズムが急激に偏り、「少し怖いほどだった」と語る。その体験が、作品が描く“情報に振り回され不安定になる心”を理解する手がかりになり、ルイーズという人物の揺らぎを掴む助けになったという。 (https://variety.com/2025/film/festivals/emma-stone-algorithms-crazy-eddington-prep-cannes-1236401672/) ◉#人形は心 ルイーズの人形は全てアリ監督によるデザイン。内面世界を可視化し、“理解されにくい心の動き”を表現する装置として意図されたという。 (https://www.rogerebert.com/interviews/ari-aster-eddington-interview) ◉#アスター新境地 アリ監督は、自身の作品の中で本作が1番風刺が強いと豪語する。 ▷「私が本作で重視したのは、可能な限り距離を置いて世界を広くとらえ、物語を損なうことなく、雑音の中にできる限り多くの声を織り込むことだったのです」 (https://topics.smt.docomo.ne.jp/amp/article/moviewalker/entertainment/moviewalker-1309453) ◆概要 【監督】 アリ・アスター(「ミッドサマー」) 【出演】 ホアキン・フェニックス(「ジョーカー」) ペドロ・パスカル(「ファンタスティック4:ファースト・ステップ」) エマ・ストーン(「ラ・ラ・ランド」) オースティン・バトラー(「エルヴィス」) 【公開】2025年12月12日 【上映時間】148分 ◆ストーリー 2020年、アメリカ・ニューメキシコ州の小さな町エディントン。コロナ禍のロックダウンにより息苦しい隔離生活を強いられ、住民たちの不満と不安は爆発寸前に陥っていた。そんな中、町の保安官ジョーは、IT企業誘致で町を救おうとする野心家の市長テッドとマスクの着用をめぐる小競り合いから対立し、突如として市長選に立候補する。ジョーとテッドの諍いの火は周囲へと燃え広がり、SNSはフェイクニュースと憎悪で大炎上する事態となる。一方、ジョーの妻ルイーズはカルト集団の教祖ヴァーノンの扇動動画に心を奪われ、陰謀論にのめりこむ。疑いと論争と憤怒が渦巻き、暴力が暴力を呼び、批判と陰謀が真実を覆い尽くすなか、エディントンの町は破滅の淵へと突き進んでいく。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆共感 ホームレスが何やらブツブツ呟く冒頭。振り返ると、それはエンドへとつながる本作最大の皮肉だった。物語は、パンデミック下のあの頃、常識と非常識が反転していた時代から始まる。ソーシャルディスタンス、マスク着用。それを「正しさ」として守る市長と、「息ができない」という理由でマスクを拒むマイノリティの側に立ち、一瞬のヒーローになるジョー。“息ができない”という言葉は、当時BLMを大きく揺らしたあの事件の明確な隠喩だろう。だが、その正義感はSNSによって増幅された、きわめて脆い錯覚だった。当時の社会空気、事件の記憶、SNSへの鋭い風刺。それらが重なり合う前半は、気づけばこちらもジョーの感情に寄り添い、共感させられてしまう危うさがあった。 ◆狂う その錯覚のまま市長選に出馬し、家庭の不和も重なって虚言を重ねていくジョー。車の看板が落下する象徴的なショットを境に、彼の内側は静かに狂い始める。人を殺め、巧みに他者を陥れていく姿。その過程で浮かび上がる本作のもう一つの皮肉は、「声を上げた者の末路」。ジョーは一瞬だけ“共感できるヒーロー”になりかけたが、その感情はやがて純度の低い狂気へと変質し、観客に激しい落差を突きつける。その不快感は『ミッドサマー』を思わせるほど強烈。銃弾で顔が破裂し、頭部に刃が突き刺さるゴア描写も容赦なく、アリ・アスターらしい不穏さが画面を支配する展開に、否応なく神経を揺さぶられた。 ◆突き落とす やがてジョーは、闇の集団によって致命傷を負う。因果応報にも見える結末だが、本作にははっきりとした分岐点が存在する。それが「声を上げたかどうか」。市長、ジョー、市長の息子、そしてデモを率いたサラ、声を上げた者たちは、例外なく悲劇的な末路を迎える。一方、最後に生き残るのはジョーの部下であるマイケル。彼は黒人でありながら、BLMが叫ばれる世界の中で、最後まで何も主張しなかった人物。つまりこの映画が描くのは、「主張しない人間だけが生き残る世界」。それは本当に正しいのかという、あまりにも冷酷な問いだった。冒頭のホームレスは“何者でもない存在”の象徴であり、この結末を最初から示していた伏線でもある。エンドクレジットの背景に映る〈solidgoldmagikarp〉という店名(=情報がバグるという意味)や、トランプの登場。社会風刺を重ねた本作が突きつけるのは、この歪んだ世界を「正しい」と信じ続けていいのか、という疑問だと思う。アリ・アスターならではの不穏さで、その問いを最後まで鋭利に貫く一本だった。 ◆評価(2025年12月12日現在) Filmarks:★×3.7 Yahoo!検索:★×3.4 映画.com:★×3.2 引用元 https://eiga.com/movie/103724/