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【R100指定映画】 主人公が抱えていく無慈悲な闇と孤独に、感情移入必至。悪へと昇華していく描写と、共鳴する無数の仮面達に、自分の気持ちが引きずられる。もはや映画の力強さと影響力はR100指定に値。 ◆概要 DCコミックス作品史上初、第79回ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞作品。「バットマン」の悪役ジョーカーの誕生秘話であり、映画オリジナルストーリー。過去ジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレット・レトが演じたジョーカーを、「ザ・マスター」のホアキン・フェニックスが演じた。ほか出演はロバート・デ・ニーロら。監督は「ハングオーバー!」シリーズのトッド・フィリップス。 ◆ストーリー 「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会で大道芸人として生きるアーサー。しかし、コメディアンとして世界に笑顔を届けようとしていたはずのひとりの男は、やがて狂気あふれる悪へと変貌していく。 ◆感想 ジョーカーがジョーカーと化すまでの圧倒的な闇と孤独。それを叩きつけられるかのような2時間で、いつのまにか自分も感情移入してしまう。無数の仮面達が街に溢れ出す描写は、アメコミの世界とは程遠く、何か人間の根本にある憎悪の根を映し出しているよう。R15というよりはR100に指定すべき映画かも知れない。 ◆闇と孤独 終始、闇に堕ちていくアーサーがいたたまれない。不良達に襲われゴミにまみれる冒頭から、持病のために周りから疎まれ、数奇な運命を辿り不意に引き起こす事故。そしてやがて判明する圧倒的な孤独。胸が締め付けられるような不運なアーサーにいつのまにか感情移入してしまう。たとえアーサーの選択が完全に間違っていても。 ◆憎悪の根 それが、この映画の持つ1番の魅力であり、怖さだと思う。見る側は、無慈悲な地獄を味わされ堕ちていくアーサーに、手を差し伸べてあげたくなる感情に苛まれるはず。それほど引き込まれる、圧倒的な闇の描写が続く。映画としてそれはある意味とても魅力的。ただ、アーサーの取る憎悪のアウトプットに共鳴し次々と増える仮面達の姿を見せつけられると、まるで自分も心のうっ屈を解放せよと囁かれているような、引きずり込まれていくような感覚に。自分以上に映画に陶酔しやすい人には、ある意味とても危険な映画だと思う。 ◆演技 これまた圧倒的だったのが、アーサーの持病である、感情とは裏腹に突然笑い出してしまうホアキンの演技。“笑う男”なんて昔バラエティのコーナーがあったけど、人が笑ってるのを見るとこちらも笑ってしまうのが普通。でもアーサーのそれは、持病という解釈に加えて、笑っていても眉間にはシワが寄ってるし、後半本当の笑いなのか、はたまた別の感情の笑いなのか、徐々に恐怖の笑いになっていく。このホアキンの演技はもう誰にも真似できない唯一無二のものなのでは。 ◆ ◆以下少しだけネタバレ ◆ ◆アメコミ 劇中には、本作の後日譚となるバットマンの本名、「ブルース・ウェイン」の名で少年が登場。シリーズファンにとってはエピソード0的な意味合いで、市長であるその父親や、アーサーとの接触シーンがある本作はたまらないはず。ただコアファンでない自分には、全くアメコミ感が排除され、一人の根深い人間ドラマを見たような感覚。貧富の差がこれだけ痛々しく描かれる映画もないし、それが悪へと昇華していく生々しさがすごい。 ◆ ベネチア映画祭の最高賞という事で嫌が応にも期待とハードルが高まっていた本作。アメコミがアメコミでない意外性と、闇と孤独が悪へと昇華する生々しさ、それにのめり込み陶酔していく映画の力強さ、ホアキンの圧倒的な演技力、、要因が数えだしたらキリがない。今後の賞レースでの本作の活躍っぷりにも期待したい! ◆WEBキュレート(トリビア) ○脚本はマーティン・スコセッシの『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』に影響を受けて書かれ、80年代初頭のゴッサムシティを舞台とした作品となり、両作に主演したロバート・デ・ニーロが本作に出演している。(https://hypebeast.com/jp/2019/10/todd-phillips-joaquin-phoenix-joker-review-synopsis-spoilers) ○ ジョーカーの外見の元となったのが、戦前1929年に公開されたサイレント映画『笑う男』で、名優コンラート・ファイトが演じたグウィンプレンというキャラクター。(https://front-row.jp/_ct/17307968) ○ 『ダークナイト』('08)のヒース・レジャーによるジョーカー。その公開前に28歳の若さで急死したヒースは、その死後に開催された第81回アカデミー賞で助演男優賞を受賞。故人がアカデミー賞を受賞するに至ったのは、英俳優ピーター・フィンチに続く史上2人目だった。(https://front-row.jp/_ct/17307968) ○ 世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ベネチア国際映画祭)で、アメコミを原作とした作品が最高賞を受賞するのは史上初。(https://hypebeast.com/jp/2019/10/todd-phillips-joaquin-phoenix-joker-review-synopsis-spoilers) ○ ホアキン・フェニックスは、役作りのために約3ヶ月で約23.5キロの減量に取り組んだ。(https://hypebeast.com/jp/2019/10/todd-phillips-joaquin-phoenix-joker-review-synopsis-spoilers) ○ 本作のアメリカでの上映に際して警察の警備が強化された。背景は米国コロラド州の映画館で12名が死亡、59名が負傷する銃の乱射事件が起き、事件の犯人がジョーカーを名乗ったため。(https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20191004-00145342/) ○ホアキン・フェニックスは「スタンド・バイ・ミー」のリバー・フェニックスの実弟。その父ジョンはジョーカーに通じる過酷な少年時代を過ごした。(https://www.elle.com/jp/culture/celebgossip/g29138780/toxic-family-vol4-river-phoenix-parents-191004/)
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