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Avg 3.5
『見所』 【中絶にまつわる出来事を擬似体験】 この作品はフランスの小説家アニー・エルノーさんが自身の実話を基に書き上げた作品が原作になっており、時代は中絶が違法であった60年代である。 気になるところとして、この作品のポスターに「"観る"のではなく、彼女を"体感する"かつてない鮮烈な映画体験」と書かれていることや、森直人さん(映画評論家)がこの作品に対して「体感型の文体が切り開く新境地」とおっしゃっていたことが挙げられる。 つまり過去の時代の体験についての作品が、監督の脚色によって今起こっていることとして描かれているのだ。 なぜそのような脚色をするのか? それは現在(2022年12月6日)になっても、中絶に対し厳しい対応をしているからだ。 例えば配偶者不同意中絶は日本の法律では「母体保護法違反」として扱われる。 他にも米ジョージア州の最高裁判所が今年の11月23日に、妊娠約6週以降の人工妊娠中絶を禁じる州法の効力を復活させる仮処分を下した。また同州では2019年に、胎児の心音が確認できるようになった時点で中絶を禁止する州法が成立。 そういったことから監督は「今現在でも妊娠中絶の権利が脅かされている」と伝えたいのだと思う。 【全編彼女目線で描かれている作品(観客の視覚を刺激)】 観客に擬似体験させるために、カメラワーク技術に工夫がされている。その技術に対し、公式サイトの触れ込みには「観ている者の主観がバグるほどの没入感をもたらし、溺れるほどの臨場感であなたを襲う」と書かれている。 ではどういう撮影方法を行っているかというと、多くの場面で主人公の顔の近くにカメラがある方法で、主人公と観客がほぼ同じ目線かつリアリティある恐怖を味わうことができる。 【カメラワーク技術だけでなく、音の演出にもこだわりがある】 主人公が我慢するたびに、息を止めたり、息切れしたりするといった「息遣い」もリアリズムと没入観に大きく寄与している。 またこの息遣いを観察するには、映画館での鑑賞がおすすめだと思う。 『感想(ネタバレあり)』 素晴らしい。 常に主人公に寄り添うカメラワーク。 想像を上回る息遣いのリアルさ。 「観客に擬似体験をさせる」という観点からすれば、この作品は大成功しているし、主人公に感情移入させるのが非常に上手い。私は感情移入するあまり、編み針のシーンは泣きそうになった。 そして主人公役の俳優の名演が素晴らしい。「月経を起こす注射が実は流産防止のための注射」だと気づいたときの表情、医者にお願い事をするときの目力、シャワーの列に並んでいるときにどうしてもお腹に目線が向くところ、主人公に協力する女性との初めての会話で「見知らぬ女性に対する不安」と「不安だけどそれどころじゃない。緊急なんだ!」の2つの感情が混在しているときの表情などの演技が上手だと感じたし、その名演があるからこそ監督の思い(「観客に擬似体験をさせたい」「リアリティある作品を製作し、中絶に対する厳しい対応は今現在も起こっていることを理解してほしい」という思い)をすんなり理解することができた。 また好きなシーンとして、 ①3人で動詞活用を言うシーンで、主人公の声を聞こえやすいようにするところ。その声から平然を装う彼女の本音が分かる。 ②「実は私妊娠しています。」 主人公の告白に対する反応を観察すると、 ついてこないでと避けたり、黙ったり、医者が頑なに中絶という言葉を発しなかったり、中絶に関する冗談に厳しかったり、冷たい対応をしたり…。 さらに主人公の声が聞こえないという理由で先生に立たされるシーンのときに、仲が良かったはずのブリジットがいつもと違う席に座っているなど。 こういった反応から「中絶禁止という概念がいかに社会に浸透しているか」が分かる。 ③先生に「教師にならないのか」と質問されたシーンで、主人公が「作家になる」と言っているところが一番好き。 個人的な見解として、今まで経験して感じた「中絶禁止の社会がどれだけ苦しいのか」「女性にしか分からない辛さ」「辛さが分からない男性の身勝手さ、他人事のような振る舞い」などを本にして、多くの方に見てもらいたいという彼女の意思を感じられて好き。ナチズムに抵抗したアラゴンのように、主人公は中絶というレジスタンス活動に身を投じているのだ。 そしてこの意思からアニー・エルノーさんの小説「事件」が誕生し、その小説が「あのこと」という映画の原作になることを想像するとめちゃめちゃ感動するし、この作品を観て良かったと感じる。 最後に一言。 絶対に映画館で観た方がいい!