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映画冒頭から危険信号が立ち始め、所謂現代批評、文明批評の面が如何にもなヒッピー思想的でもあり、しかもストーリーも描写も淡白で且つ省略されていて唐突に見え、キャラクターの魅力にも乏しい。 声優陣も松岡茉優、杏、麻生久美子なども悪くはないが、特段良くもない、市村正親だけは圧倒的なうまさ、と思いながら最後の最後まで全編を通じて「微妙」だと半ば退屈していた矢先。 アカネとチィが戻ってきたところでドッと涙が溢れた。最初、自分でも戸惑った。 終始、微妙と感じた気持ちのまま、身体だけがほぼ反射的に号泣したからだ。 このような感覚はこれまで映画を観て感じたことはない。 そしてエンドロールが流れる頃には、その身体的反射による号泣の余波が感情を埋め尽くして、「とても良い映画を観た」という感覚と、なぜ良かったかを冷静に分析している自分がいた。 つまり、これはまさに原恵一監督の言う「ファンタジー」に違いない、ということ。しかし、現代におけるアニメーション表現における「ファンタジー」とは完全に異質なものだ。 つまり、現代アニメーション表現に対して、「真っ向から」批評的に立ち向かったと言える。 具体的には「セカイ系」的物語や「萌え」における自意識あるいはある種の未成熟なエロス的な要素を徹底的に排除した、ということ。 原作にあるように、本作の世界観も所謂「児童文学」の世界である。 誤解を恐れずに言えば、半ば思春期以降の「オトナ」向けのアニメが蔓延し、「本来」という意味で子供に向けたファンタジーではなく、歪な自意識と、暴力やエロスに自閉していくアニメーション表現とは100%真逆にある世界観。 僕は個人的に、そういった「現代」のアニメーション表現には疑問を持つ人間として、むしろ、大人の思惑など完全に無視した「子供向け」の作品の方を支持する。 そして大人になった今。子供ではない自分にとって、この退屈感こそ、大人になったということでもあるし。 しかし、ただ、大きくて小さな冒険の中で、何か特別な力を持つわけでもなく、ただひとつだけ、まさに現代が抱えるしがらみから自由になる術を見つける、という話だけで充分にパワフルな作品だと思う。 これこそ、大人も子供も観るべきアニメーション映画。
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