
Till
3.5

Missing
Movies ・ 2021
Avg 3.5
『岬の兄妹』で注目を集めた片山慎二監督の商業デビュー作となったサスペンス映画。 原田楓と父親の智は大阪の下町で穏やかに暮らしていた。しかし、智は指名手配犯を目撃したと楓に告げた翌日、忽然と姿を消してしまう。心配になった楓は智が日雇い労働の現場に出勤していることを知り、会いに行くが、そこには智を名乗る全く別人の若い男がいた…。 片山監督が『TOKYO!』や『母なる証明』でポン・ジュノの助監督を務めていただけあって、韓国ノワールの殺伐とした雰囲気をしっかりと引き継いでいる。雰囲気だけでなく中身も韓国に双璧するクオリティで、サスペンスとしても一級品。実は上に書いたあらすじはほんの薄皮一枚に過ぎず、ここから二転三転と目まぐるしく物語が展開されていく。人物の視点が変わり、過去に遡り、観客を散々揺さぶり続けながら、最後には綺麗に一本に繋がるという構成も巧み。座間事件や市橋達也など実在の事件・人物をモデルに社会の暗部を描きつつ、ちゃんとエンターテインメントとして成立させるあたりも実にポン・ジュノ的で、長編2作目にしてすでに巨匠の風格を感じた。 役者陣のレベルも高い。『空白』では内向的で寡黙な生徒を演じた伊東蒼だが、今回は男気たっぷりでゴリゴリの関西弁をしゃべる楓を熱演。清水尋也の目つきの鋭さから滲み出るサイコ感も良いし、森田望智の少し陰のある女性の感じも上手い。そしてやはり佐藤二郎。福田雄一監督のおかげで(せいで)「おもしろおじさん」のイメージがどうしても拭えないが、今回はその一面を残しつつも、大部分はシリアスな演技に徹している。やっぱり本当に上手い人はコミカルもシリアスもいけるんだなーと改めて感心した。 でも確かに言いたいこともある。例えば、楓のあまりにも物怖じしなさすぎるキャラクター造形は現実離れしてるし、途中で出てくる田舎のおじいちゃんの「意外な趣味」もちょっとどうかなと。全体的にリアリティがある中で感じるリアリティのなさが違和感だった。あとこれは別に物語上どうでもいい話なのだが、個人的におっ〇いのくだりがめちゃくちゃ嫌い。見せるのもどうかと思うし(もちろん映像としては映してないが)、そのあとの「あ、鼻血」っていつの時代のやつだよ。しかもこれは医学的には立証されていない現象だし、そんな一昔前の漫画みたいなノリをわざわざやる意味もない。ここがとにかくダサかった。 また、「尊厳死」という骨太なテーマに中途半端に足を踏み入れてしまった感も否めない。この問題はこれ一本で映画にできるほど重厚なテーマであるのだが、そこの描きこみが浅いと思う。今回の殺人犯は『ブラック・ジャック』に登場するドクター・キリコのような信念・哲学をもって殺人を繰り返しているのか、それとも単なる性的快楽として行っているのか、正直どっちつかずなところもあるが、おそらく後者の描き方が強い。ただ、これだと「尊厳死」というテーマがブレてしまうのではないか。例えばここで尊厳死的殺人行為を否定しても、それは結局「快楽殺人だから」が主な理由になってしまい、「では快楽殺人じゃなく、苦しみから解放してあげたいと心から思っていれば殺人は許されるのか」と反論されるだろう。もし本気でこのテーマに取り組むならここをもっと突き詰めるべきではないか(確かに難しい問題ではあるが)。一応ラストで楓からの「アンサー」が掲示されるが、これも単なる「アンサー」に過ぎず、具体的な「理由」が述べられていない。映画内において「テーゼ」と「アンチテーゼ」が明確に示されないため、「アウフヘーベン」されず、結局「ジンテーゼ」に達していないように思える。犯人をただの快楽殺人犯に設定してしまうことで、この「尊厳死」という問題から逃げているように感じてしまった。 ただ、この映画のテーマは「善と悪」というもっと広義なもので、「尊厳死」はテーマというよりその「善と悪」を描くためのあくまで「手段」に過ぎないのかもしれない。でも「手段」にしては「尊厳死」は重すぎるし、それゆえにテーマを食ってしまっている気がして、個人的にはなんだかスッキリしなかった。でも映画としては間違いなく面白いし、近年の邦画の中でも屈指の完成度だと思います。