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分離不可能な男女の、15年にわたる究極のラブストーリーであり、二人を結びつける媒体が音楽、すなわち音楽映画としても至高の大河ドラマであると思う。 しかし、88分という尺(実際には冒頭から出会いまでが約7分、エンドロールが約7分だからドラマ部分は75分弱)がいかにも短い。これには理由がある。 描かれているのは、二人が「一緒に居る」時間だけだからだ。実際には、離れていた時間が圧倒的に長い。そして、この離れている時間に起こったであろう、様々な濃密なドラマが、全く描かれない。省略ではなく、描かないのが目的であったろうと思われる。そこは観客に委ねられたということであろう。 モノクロ、スタンダードの枠に、稀有なピアニストでありアレンジャーである男と、その最高の表現者である女が、冷戦という枷の中で紡ぎだされる音楽は、どれもこれもガッツリ響いてくる。 男が奏でるショパンの幻想即興曲、パリのバーでのフォービート、退廃的な酒場でのエイトビートも心に残るが、やはりポーランド民謡と思われる「オヨヨ~」のメロディが、少女のモノローグからオケを伴う民族舞踊へと洗練され、西側でのジャジーなブルースになるところは、至高という他ない。 そして、エンドロールでの、グレン・グールドによるゴルドベルク変奏曲のアリアには泣ける。直前の二人の「道行き」を、これほど暗示させる音楽もないであろう。
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