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2020年代79本目は、巨匠ダルデンヌ兄弟の最新作で過激な思想に走る少年を描いた『その手に触れるまで』。 ------------------------------------------------------------ アーメドは叔父の影響を受けてイスラム原理主義の危険な思想の罠へとはまっていきます。コーランの教えを守ることそれ自体が悪ではありませんし、「女性に触れることができない」とか「体を入念に清める」といった少々行き過ぎと思われる信条も、信仰上の理由でやむを得ない場合もあるでしょう。ところがアーメドはそうしたレベルを遥かに超越し、周囲を敵対者とみなして排除しようと試みます。 ------------------------------------------------------------ 『レ・ミゼラブル』でも1人の少年が暴力に囚われていく様子がリアルに描かれましたが、本作も次の世代を担うべきはずの若者が、自分を取り巻く環境のせいで道を踏み外す様子を残酷に映し出しています。アーメドはとにかく妄信的で、心の内がまったく読めません。いったい何が彼をそんなに暴力的な衝動へと駆り立てるのか、我々は想像を巡らせるしかないのです。 ------------------------------------------------------------ これに拍車をかけるのがダルデンヌ兄弟お得意の「スライス・オブ・ライフ」方式の展開で、シーンの前後は全く時系列的に繋がっておらず、アーメドが暮らす日々を断片的にピックアップしていきます。そのため、ただでさえ読み取りにくい心情が輪をかけて分かりにくくなっています。テーマや撮り方は面白いですが、最後の終わらせ方含めて観客に「くみ取る」ことを強要する、ちょっと上級者向けの1作です。
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