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ある意味、恐怖映画だと思った。 孤独でいなければ生きてゆけない兄、孤独だと生きてゆけない妹・・という正反対の兄妹であり、磁石の相反極のようなものが一緒に暮らせるわけがない。 兄は孤独であることが最も落ち着ける日常であるが故に、「性行為」は自身の中の毒を吐き出すような行為であって、生物学的にも社会的にも最も無意味で反抗的な「中毒」という状態に陥っている。 妹は、他人とコミュニティを常に取っていなければ動けないような、もはやパーソナリティ障害の範疇(実際に自傷行為の常連である)に陥っている。 グレン・グールドのバッハが、兄の日常をバックに流されるが、これも孤独の象徴であろうと思う。グールドは、類稀な天才であったが、最終的には観客を排し、スタジオにこもったピアニストだった。 その兄が、妹が歌う「ニューヨーク、ニューヨーク」に涙するシーンがある。 熱情的で極めて湿った性格の妹が、打って変わって、もはやホラー映画の主題曲のように、原曲が判別できないほどの冷ややかさで歌うのであるが、これに兄が涙するのである。これが、私にとっては恐怖の始まりだった。 妹が転がり込んできたことを契機に、兄は職場の同僚と人間的な恋愛感情を前提としてコトに及ぼうとするが出来ない。そして間髪入れず、娼婦、あげくには倒錯した世界に入り込み、毒を吐き出す。そしてラスト・・となるが、ここに及んで、この兄が妹しか愛することが出来ず、妹もそれを知っているというような、極めて薄ら寒い恐怖の世界が提示されたような気がした。 往年の大スターと同姓同名の監督であるが、ブルーを基調とした冷たい映像と、時間軸を小幅にずらした演出が新しい。「エロス」とカテゴライズされる映画なのであろうが、全く官能的でない。私にとってはホラーであった。
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