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スターリン体制下のソビエト連邦が舞台で、そこで起こった連続殺人事件を主人公レオが突き止めようとするというものだが、ロシアでは上映中止になるというワケあり映画。「アクション映画を得意とする監督のダニエル・エスピノーサは大きな物語と社会的な題材のなかで身動きが取れなくなっている」と指摘されており批評家からの評価は驚くほど低いし、確かにそれは一理あるかもしれないが、そこまで酷評されるほどではないかなと思う。謎を解いていく系のゴリゴリのミステリー映画を期待してる人にとっては肩透かし食らうだろうし、唐突に出てきた犯人にもあまり腑に落ちない。ただ、冒頭に出てくる『楽園に殺人は存在しない』という言葉がとても重要で、これがこの映画の全てと言っても良いほど。これは「連続殺人は資本主義の弊害によるものであり、この種の犯罪は存在しない」という共産主義である当時のソビエト連邦の公式の考え方であり、要するに資本主義を非難しているのだが、この考え方があるが故、国としては犯罪が起きてはいけないという思いに至り、犯罪を事故として処理するなど必死で隠蔽をしなければならないという事態に陥ってしまう。この映画ではレオが圧力をかけられながらもその国家権力に立ち向かい、犯人を見つけ出し、殺人を立証するという勇姿の様を大々的に描いているため、ミステリーとは少し違うのかもしれない。全くミステリー要素がないわけではないのだが、犯行手口も単調で観客に推理させる感じでもないためミステリーとしてはちょっと弱いかなと思う。それに、全体的に盛り上がりに欠けていたり、ゲイリー・オールドマン演じるネステロフ将軍の魅力もあまり描けてなかったりと残念な所もあるのだが、トム・ハーディの演技はちゃんと活かされてるし、スターリン体制下の残酷で理不尽な時代背景を学ぶことができるという点も加味すれば全然良作と言っても問題ないと思う。
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