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星ゆたか

星ゆたか

3 years ago

3.0


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Perfume: The Story of a Murderer

Movies ・ 2006

Avg 3.3

2022.12.8 特質なる嗅覚を持つ青年が、究極の香水を作りだすために犯す殺しの物語。 〈ダーク・サスペンス・ファンタジー〉 原作は1985年に発表され後に日本を含め46ヶ国に翻訳され1500万部のベストセラー。 作者はパトリック・ジュースキント(1949年~)ドイツのファンタジー作家。 18世紀フランス・パリの悪臭漂う魚市場で産み落とされたジャン=バティスト・グルヌイユ。 実母は刑死され、強欲な婦人の育児所から、横暴ななめし革商人に売られ口数も少なく、ただ日々を生き抜くためだけの仕事に就いていた。 自身の嗅覚だけが異様に鋭い所の感を頼りの暮らしのある日。 果実売りの赤毛の娘の何とも“いい匂い”に、誘われるように後をついてゆき、その匂いの基を探る結果、誤って死なせてしまう。 あのめまいを誘う“匂い”を嗅ぐことが、生に執着する自分で在ることに気づく。 そしてなめし皮の配達で訪れたイタリア人のバルディーヌの香水店で、やっとその嗅覚の才能・調香を活かせることになった。 そこで香水は音楽に似ていると教えられる。 3つの和音〈頭・ヘッド〉〈心・ハート〉〈土台・ベース〉全部で12種類の香料が必要だ。しかし13種目が未だに分からないとも。そこに永遠に匂いを保存する、保管出来る香水の完成に繋がるのだと。 一躍グルヌイユは店の人気復活劇に貢献した後、さらに調香技術を学ぶために、グラースの街へ旅だつ。 作劇的にこのグルヌイユにある時期関わり、役目を果たした後人物は消えて(死んで)ゆく。不運な実母、育児所の婦人、なめし革商人、そしてバルディーヌ香師と。まるで自身に付けた香水の香りが、時と共にいつの間にか消えてゆくかの如く‥‥∴。 そしてこの修行のための旅の道中、彼は自身に体臭が無いことに気づく。 彼は誰にとっても“無”の存在。誰の記憶にも残らないという“恐怖”だ。 この世に生きた証がない。 自分が特別の人間であることを世に知らしめるのだ。 この決心にやっと、神も彼に微笑みかけたようだと思えたのである。 そこで彼は香水の製作の〈蒸留法〉に加え〈冷浸法〉を身につける。 それは気温の低い部屋で、冷たい油脂を塗った板か布に、花を包んで油脂に匂いを移す方法。その花を何回も取り替え。 しかし彼は若い娘の匂いに、取りつかられたため、花の代わりに次々と娘をさらっては殺し、体に油脂を塗り布で包み毛髪をそぎ、究極の香水作りに翻弄する。 映画はその13人目の娘。裕福な商人リシの娘ローラを巡ってのサスペンス(中々彼女から奪取出来ない香り)で盛り上げてゆく。 監督はトム・ティクヴァ(65年生まれ)ドイツ出身の作曲家でもある。何と言っても「ラン・ローラ・ラン」(98年)は強烈な印象。 主人公を演じるのは007シリーズのQ役でもお馴染みのベン・ウイショー(80年生まれ)。監督の彼の舞台を見てのお目がね。見事成功した! イタリアの調香師バルディーニ役はダスティン・ホフマン(37年生まれ)。 私にとっては「卒業」(67年)の彼が、洋画の世界へいざない導いてくれた俳優さん。二度のオスカーに輝く名優。 好きな思いでの作品なら数知れない。 商人リシを演じたアラン・リックマン(46~16年、69歳ですい臓ガンで亡くなる)ハリーポッター・シリーズのスネイプ役で顔馴染み。この役は原作者のJ.K.ローリングの推薦だったらしい。映画デビューの「ダイ・ハード」(88)も忘れられません。 映画は冒頭・前半から中盤以降まではリアリズムの暗い、陰湿なタッチで進み。 終盤は主人公が究極の香水を完成させその匂いで。 まず身近な人間の怒りや憎悪の感情を、腰砕けにして思うがままにと徐々に幻想的描写に変化。 そしてさらに彼全身に振りかけられた“匂い”、彼の目指した〈存在証明〉を持つて、無かった〈体臭〉が《大衆》をひれ伏せることに。 その官能的な香りに彼の殺人の裁きに集まった人々は、我を忘れ裸になり触れ合い快楽の空間に変化した場に失神する。 そしてこの彼の香水=存在証明の結果。 皆が彼のことを『天使だ!』と叫ぶ。 けれど究極の香水でも、彼を人並みに愛し愛される人間には変えられなかった。 彼は出生場所のあの貧困ぐつに嗅覚に導かれるように戻り、貧民達にその存在を貪られ、目的を果たしたごとく昇天してゆく。 この終盤はまさにファンタジーの醍醐味で、作品観賞の“残り香”となった。