レビュー
ジェームズ・ガンが監督・脚本を務めた、2006年公開のスプラッター・ホラー。 ジェームズ・ガンの初監督作品となる本作では、落下した隕石から飛び出た謎の生命体が有力者グランドの体に寄生したことをきっかけに田舎町全体がパニックに陥る様子が描かれます。低予算のB級ホラーやコメディを数多く送り出した「トロマ・エンターテインメント」の下でキャリアをスタートさせたジェームズ・ガンが送る初の監督作という事で、『ザ・スーサイド・スクワッド』の興奮が冷めやらない状態のまま本作もついでに観てみました。作品自体はもろに「80年代B級ホラー映画」風で、当然エグい描写も満載です。80年代風味のスプラッター描写だけでも結構キツいのに、本作はそれ以上に「悪趣味なグロテスク描写」が強烈な印象を残します。特にあのデカ太いヒルみたいなナメクジみたいな寄生生物のルックスとそのとてつもない量、寄生された人間の肉体変化、グラントの不倫相手ブレンダの驚愕の変貌ぶりなどなど、とにかく思い出すだけでも気分が悪くなる… ただこの過度な悪趣味演出は単なる悪ふざけではなく、物語的にもしっかり必然性のあるものだと思います。そしてそれが最も顕著なのが本作のクライマックス。寄生されても人格だけは保ち続けているグラントですがその姿はバケモノ以外の何者でもありません。スターラとの結婚に関して周囲からはあまり良く思われておらず、更に序盤では女友達と不倫もしてしまいましたがそれもこれも奥さんへの愛故であり、これほどまでに醜く悍ましい姿のグラントがその真っ直ぐな愛を面と向かって伝えるシーンは何とも哀れで悲しいです。観終わってみると本作は彼こそが主人公だったという事が分かりますし、処女作にして早くも盟友マイケル・ルーカーとの相性の良さが伺える一作でした。 かと言って奥さんのスターラは貧困から抜け出したい一心で若くしてグラントの妻になったという背景が冒頭で語られており、当初からこの2人の間には明確な温度差がある訳ですよ。その為エンドロールが流れる中、完全にグラントに思い入れてしまった自分は改めて「劇中においてグラントはどの時点でどうしていれば幸せだったのか」を考えてみたのですが、それはどこにも無いんですよね。つまりグラントの運命は映画が始まった時点で既に決まっていたという、この悲哀たるや… いかにもジャンル映画感、B級映画感溢れる一作ですし、実際そういう作品としても本作は文句無しに楽しめるのですが、やはりその根底には物語に厚みを持たせる演出や登場人物の丹念な描き込みといった”真っ当な物語構築”が常にあるからこそ、本作及びガン監督作は他とは一線を画す唯一無二の作品に仕上がっているのだと思います。彼の映画作りに対する姿勢や志は今回の『ザ・スーサイド・スクワッド』と並べてみると納得度もより一層増しますし、彼のルーツでありキャリアの出発点でもあるトロマ映画も履修してみたくなりました。 『スーパー!』の廉価版ソフト出してくれないかなぁ。
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