レビュー
【斎藤工の際立つ監督力】 配役ドンピシャ、静かながら主張の強い演出、そして事実を見事に映画にまとめた斎藤工の監督力が光る。何気に後半のアドリブ合戦も見もの。 ◆ 突然失踪した父。空白の13年間が父の死後に埋まっていく―実話に基づく、ある家族の物語。放送作家・はしもとこうじの実体験がもととなっている。 ◆ 第20回上海国際映画祭(アジア新人賞部門)最優秀監督賞受賞作品。斎藤工が初の長編監督。「セリフの丸暗記は不要」と伝え、役者陣はそれぞれの役を理解したうえで、アドリブ演技を披露しているらしい。出演は、高橋一生、松岡茉優、斎藤工、佐藤二郎、リリー・フランキーなど。 ◆ 個性的な俳優たちと共に、静かに、そしてコミカルに、ダメ人間だった父への息子たちの感情が動いて行く。その様がとても穏やかで心地いい。 タイトルを起点とした、前半と後半の転換がはっきりしていて、尺も長くない分、分かりやすい構成になっていると思う。 注目したいのは、この映画で幾度も散見できる、穏やかでかつ主張の強い演出。病院屋上での父子の立ち位置で2人の心の距離を暗示していたり、母の父への弔いを、ラストで無理に吸うタバコで表現していたり、家中の暖色照明と家外の青暗さで外中に対する家族の心理的な明暗を際立てていたり。 そんな細かいところはもちろん全体としては、前半が徹底的に父の負の面を強調する構成、後半は父の正の面を強調するはっきりした構成。隣で行われていた規模の正反対な葬儀がその焦点の一つ。前半はその規模や華やかさ、故人を思い涙の止まらない人もいる程、父の葬儀と対照的な故人の偉大さを強調。でも後半では、それが虚偽の涙であり、雇われたものとなる事で、心の通う父の葬儀が芯のあるものであることが強調されている。前半が大きな振りかぶりとなっていると思う。 そして何より、後半の葬儀場でのアドリブ合戦が見もの。佐藤二郎をはじめ、個性豊かな俳優たちが、配役ドンピシャなキャラクターで次々と父への思いを吐露して行く。対照的にピクリともしない兄弟とその彼女達は、むしろお笑いを見せられている気持ちにもなる。笑いもふんだんにありつつ、個性的な面々が各々の間合いで父の印象を変えて行くのはとても面白い。 演出が分かりやすい事に是も非もあると思うけど、自分はこの監督の次回作にも期待したい。
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