レビュー
水深1万メートルにある油田掘削基地内で大事故が発生し基地の70%が損傷。僅かに生き残った者たちが不可能とも思える海面への脱出に向かい進んでいく中で、海底に潜む「何か」の気配を感じ始める…。そんな感じの海洋ホラー。 映画内で映されるのは『アンダーウォーター 』というタイトル通り掘削基地と海底のみ。オープニングとエンディングで挿入される記事の切り抜きの言葉で背景事情が語られ、地上の様子は映画外へと追いやられる。そのために画面はほぼ深海の闇で覆われ、まるで宇宙空間に放り出されたかのような閉塞感を覚える。その中で人工的な光を発する巨大な掘削基地の外観は『ever17』を思い出させ、その異常なまでの巨大さと物質的質量は人類が踏み入れてはならない神域を無慈悲に蹂躙しているかのような嫌悪感を与え、また逆アプローチからの神話的空気感を醸し出すことにも役割を担っている。 基地の崩壊とモンスターの相乗効果は『ディープブルー』のようではあるのだけど、本作の場合には神域としての海底を空間的・視覚的に作り上げることを重視しているように思える。それでいてモンスター以外では極端な非現実を極力抑え、何も見えない闇と頼りない人工の光によってそのパワーバランスを作り出し、圧倒的な魔境に終始嘲笑われ、弄ばれているような感覚にさせられる。 基地内での徹底的に抑えた静の演出から水滴と共に急激に動へと舵を切るメリハリの効いた冒頭とは対照的に、中盤以降は演出におけるメリハリがなく、常時慌ただしく映像が行き来するために正直見辛いし段々飽きてくる…。状況における管理と非管理の天秤を映像によって傾けていく意図は感じ取れるのだけど、そのためにモンスターパニックとしての面白さは完全に放棄しちゃっていて、この辺りが評価を落とす大きな理由のひとつになっちゃってるんだと思う。スリルがほぼないんだよね…。 冒頭でメリハリ効かせちゃってるのも「私ら、こういうのもちゃんとできるから!」っていう、中盤以降はあえてやってるんだって予防線張ってるように見えてきてしまうのが何となく言い訳がましくて残念。でも、本作がクトゥルフ神話の影響下にあるのは間違いなくて、人類には制御不可能な強大な存在に只々弄ばれるという本作の提示する感覚は、クトゥルフ的なアプローチとしては大正解だと思う。時期が近く同じく海洋クトゥルフホラーな『シーフィーバー』もモンパニは完全に放棄していたから、それが最近の流れなのかな。でも窓から見える『ザ・グリード』みたい全容は最高だった!
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