レビュー
【昼が怖くなる映画】 白夜の村で起こる恐怖。太陽が沈まない不思議で不気味な映像に、次第に自分も時間軸が分からず錯乱していく。ラストカットもエンドロールすらその狂気に堕ちていきそうな感覚でもう、昼が怖くなる。 ◆概要 監督・脚本は「ヘレディタリー 継承」のアリ・アスター。出演は「ファイティング・ファミリー」のフローレンス・ピュー、「シング・ストリート 未来へのうた」のジャック・レイナー、「パターソン」のウィリアム・ジャクソン・ハーパー、「デトロイト」のウィル・ポールターら。 ◆ストーリー 不慮の事故により家族を失ったダニーは、スウェーデン奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」に参加する。白夜で楽園のようなその村に、次第に不穏な空気が漂い始め、妄想やトラウマ、不安、そして恐怖により、ダニーの心はかき乱されていく。 ◆感想 次に何が起こるのか?予測がつきそうでつかない絶妙な展開。幾多にも散りばめられたパズルのような伏線が回収されていく、頭のアハ体験的な楽しみ方もある。カルトな展開に、目を覆いたくなるゴア表現もある中、次第に自分もそのワールドに引きずり落とされていくような感覚に。終わってみれば、究極のカタルシスが描かれた芸術作である事に気づく。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆絶妙 入ってはいけない小屋、オリに入れられた熊、72歳までの年齢を四季に例えて解釈する村の掟。まるで「ゲット・アウト」のような、何かがこの村で必ず起きると予測させる展開。もうあの老人二人が高台に上がる時点で次の展開は分かるものの、それが逆にこの先どうなっていくのか、パニックものになっていくのか、何か壮大な脚本の幕で見るものを恐怖に包み込むような、絶妙な展開だった。 ◆伏線回収 そんな老人の自殺も、72歳までを四季と例えた事前のシーンが伏線だったし、遺灰を大木の根に撒く細かいカットも、その後のマークが立ちションをしてしまう回収に繋がっていた。そんな緻密で幾重にも張り巡らされた細かいものから、次々といなくなる仲間たちがラストで全員死体の生贄として登場する大きなものまで、まあアハ体験で頭を最初から最後まで活性化してくれる映画だった。 ◆白夜 ほとんど夜にならないホルガ村。今が夜の9時なのか?とマークが話すシーンや、村に入る直前のダニーのドラッグ錯乱シーンも含めて、時間軸が分からなくなる感覚。まるで見ているこちらも自然と錯乱していくような、白夜というトリガーを上手く使い、映画全体でホルガのカルトワールドに引きずり込まれていく、昼が夜より不気味と感じるような感覚だった。まさに脚本の妙。エンドロールのBGMすらあの村の不気味な音楽がかかるあたり、最後までその世界に堕とそうとしてくる徹底ぶりが素晴らしい笑 ◆カタルシス 見るのも耐えられないほど、家族の死に憔悴するダニー。そんな彼女がホルガ村に連れてこられて恐怖に包まれ、彼女に何もいい事が起きずに終わるのかと思いきや、オーラスのカットでうっすら笑みを浮かべる。ダニーの誕生日も覚えておらず、村娘と交わってしまうクリスチャン。そんな男から完全に解放された彼女が、家族の死の呪縛からも同時に解放されるある種のカタルシスであり、同時にホルガの狂気にダニー自身も堕ちていく。この映画のラストにこれ以上なくふさわしいカットだったと思う。見る側としては、ある意味ホッとしてある意味胸糞が悪くなる、複雑な感情をどっさり心に残してくる、またこれも脚本の妙だと思う。 ◆ 映画としてさまざまな工夫が練り込まれた秀作。ただどうしても一般常識目線で見てしまう自分もいて、こんなカルト集団の村が存在するなら焼き払わねばと思ってしまう笑。そんな自分も、ホルガのカルトにいつのまにか堕ちているのか、不気味な影響力がある映画だった。 ◆トリビア ○原題のMidsommarはスウェーデン語で夏至祭(ミッドソンマル)(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ミッドサマー_(映画))。 ○脚本もしたアリ・アスターは、ダニーが自分の分身だと語った(https://eiga.com/news/20200221/15/)。 ○監督のアリ・アスターは日本映画好きで、黒澤明や園子温など、沢山の邦画タイトルを会見で口にした(https://www.cinematoday.jp/news/N0113755)。
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