レビュー
深い物語だった。それぞれに人生があり、ストーリーがある。 エホバの証人の信者であるジュリー(マリリン・キャストンゲ)とその彼氏エティエンヌ(グザヴィエ・ドラン)。老年でありながら不倫の恋に浸るバーテンの男性とクロークの女性。薬の運び屋の男性。アル中の妻とギャンブル狂いの夫。そして運命の飛行機事故へ。 白血病に侵されたエティエンヌは、教義により輸血ができず手術することができない。神の救いをただ待つ。信仰のために死ぬ。エティエンヌの彼女は医療従事者であり、輸血を勧める立場にあるのにそれができない。この苦悩。彼女もまたエホバの証人の信者であり、彼の苦しみを理解できた。 エホバの証人。詳しくは知らない。昔ドラマか映画で北野武が信者を演じたものを観て強烈にその表情を覚えている。 信仰。日本人には理解しがたい心情ではなかろうか。私自身も命に代えても守るべき信仰なんかない。今まさにスコセッシの「沈黙」が公開中だが、その気持ちを理解することは今の私には到底できない。 ストーリーは過去と未来を行き来しながら、吸い込まれるように終結していく。そしてルイーズの夫の言葉が強烈にジュリーの心を捉える。 観ているうちに信仰の気持ちのほんの一部を理解したような気がした。信仰なくして生きる意味なし。信仰を持たない私からみたら、そんなことのために死ぬのか、と馬鹿げたことに思うが、エティエンヌやその家族の様子を見ているうちに、急に弾けるように何かがわかった気がした。 この作品は、相当よくできている。グザヴィエの才能がわかりやすく表現されている。とにかく、登場人物の心情がどれもグサグサ入ってきて、どのストーリーも胸に刺さる。それでもエティエンヌとジュリーのストーリーはこの作品の大半を支配している。 神とは。
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