レビュー
星ゆたか

星ゆたか

4 years ago

4.0


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男はつらいよ 寅次郎相合い傘

映画 ・ 1975

平均 3.7

2022.6.11 座談会シリーズ第四回。梅雨の時期にピッタリの映画を選びました。 出演は同じみ、星ゆたか、光みつる、風かおる、雲かすみ、雨あられです。 (星)それでは皆さん今回も宜しくお願いします。 昭和44年(1969年)に始まったシリーズ第15作目、六年目の一つの到達点に達した、最高傑作との誉れ高い作品です。マドンナ役通算四回の浅丘ルリ子さんが、二回目の出演、旅回り歌手・リリーを演じ、彼女にとっても代表作になりましたね。 (光)なんと言っても船越英二さんの蒸発男と、寅さん、リリーという二人の旅暮らしのベテラン合わせて三人で、繰り広げられた前半がシリーズでは異色です。そしてそのトリオ漫才的な面白さは最高の喜劇でした。こういった三角等辺の人物が平行したドラマ展開は珍しいでしょ! (風)落語家の立川志らくさんが、寅さんマニアを自称するだけあって。 その会話の面白さ、テンポ・リズムの歯切れの良さ、俳優の計算された演技の掛け合い、そのための一番効果的なカメラワークなどの演出。 初めから終わりまで、だれることなく、見事に名人落語“演話芸”を堪能できました。 (雲)またこれは山田洋次監督がおっしゃった言葉『“余禄”の撮影風景』が随所にあり、忘れられなくなります。それは物語の上で感動させられたり共感したりした後、芝居とは直接関係ない風景に、何とも知れない深い感情移入ができるんです。例えば北海道で三人が日の落ちかけた浜辺で子供のように戯れた光景とか、柴又帝釈天近辺の人達の日常スケッチなどなど。監督のいう、その場所その時にしか見る事の出来ない日本の風景を寅さん映画で、いかに生かし残すかですよね。 (雨)寅さん人物像の“大人っぽい”部分と“子供っぽい”部分とが、交互に表れ、それが大きな三つの名場面を生みましたね。 《リリーの晴れ舞台を語る寅さんのアリア》《とらやでのメロン騒動》《喧嘩した後での寅さんとリリーの相合い傘》です、シリーズ屈指の名場面です。 (星)アリアって、渥美さんお得意の聴衆を惹き付けて放さない一人がたり。 リリーがあまりにもみすぼらしい所で歌っているので、一回位もし俺に金があったら、立派なステージで歌わせたい。と延々にとらやの人達の前で語ってゆく場面は、やはり今回も泣かされました。あそこは後に渥美さん回顧の特別番組で、ゲストに招かれた浅丘さんも泣かれてました。 (光)メロン騒動は船越さん演じる人物の、旅先で世話になったお礼の到来ものをめぐっての話。 寅さんの分をうっかり忘れて皆が食べようとして、彼がふくれ寅さんなりの文句をたれる訳です。 するとリリーさんが一言申す。 『ちょっと寅さん大人げないよ、お前さんのような人間をここまで思ってくれる人達が他にどこにいるってんだい!日頃お世話になっている皆さん、どうぞ召し上がって下さいって言うのが本当だよ。』 これは自分でも内心わかっているんです。しかしみんなの前で女に叱られて憤慨するんですよね。 かつてここまで彼を叱れるマドンナは、後にも先にも彼女しかいません。だからとらやの人達も寅さんの嫁さんに是非と思う訳なんですが。 (雲)現代から考えると何もメロン一つをめぐって?なんですけどね。あの頃はメロンは高級品で、そう度々食べられなかった。劇中でも一年ぶりって言ってました。お祝いとかお見舞いとかの特別の食べ物。 渥美さんは完成した映画を、決まって封切り館で、じかに見たらしいんですけど。 後にこの映画の新宿と浅草の客の反応が違いを話してました。浅草の客の方が寅さんよりの反応、つまりメロンの切り忘れは寅さんが気の毒!と同情するらしいと。浅草は人情の町、新宿はドライな都会っていう違い。 (雨)そして次の日の雨の夜、寅さんは叱られてしゃくなんだけど、番傘を差して柴又駅まで、背一杯虚勢をはって仕事帰りの彼女を出迎える訳です。どうせ自分には家族の出迎えもないと思っていた彼女の表情が一気にほぐれるその場面は ♪寅とリリーの哀愁のセレナーデ♪の音楽も相まって、思わず涙がこぼれました。 (風)多くの現代の日本人は、心の中では「人間的ふれあい」の希薄化を嘆きながら、オンラインの「生活の利便性」を優先して暮らしています。 失ってしまった「思いやり」や「気づかい」といった人間の心配りこそが、寅さん映画の真骨頂なんです。しかし現代の若い人達などには、時にウザッタイという反応を示しがちなんだよね。 「光)そういう心配りは、確かに正直面倒だったりする。しかし無機質な生活を続けていくと、やっぱり振り返ってみて一抹の寂しさを覚えたりもしますよね。例えていうなら、一年中コンビニでも好まれる“おでん”のような、昔ながらの故郷の温もりですか? あぁおばぁちゃん、おじぃちゃんに優しくしてもらったなぁっていう心の郷愁です。 そんな時寅さん映画を見ることで、この「人間らしさ」を確認できるのでしょうね。 (雲)そこに描かれた人間関係の微妙なひだは、時代や国境を越えた普遍性を有するものです。そしてあれほど「日本的」である寅さん映画が、言語や文化の壁を乗り越えて、海外でも高く評価されている所以でしょう。 (星)それではまだまだ話も尽きませんが。ここで私事ではありますが。最後に寅さん関連の話題として。 もう5~6年前になりますでしょうか。渥美清没後20年追悼企画 「男はつらいよ』の世界 という催しに参加したことがありました。映画監督の山本晋也さんと、もとNHKアナウンサー渡辺俊雄さんのトークライヴでした。シリーズ作品の名シーンだけを次々と見せながらその解説をして、共に楽しむイイ時間でした。もちろん本作も話題の一つに上がりました。一本の映画を丸々楽しむのとは違う良さがありましたよ。 さて今日のところは、そんな映画の感動をこのレビューを読んでくれた人とシェアした所で。 お後がよろしいようで。 ありがとうございました。