レビュー
大林宣彦が監督・共同脚本を務めた、2020年公開のファンタジー・ドラマ。 2020年4月10日に逝去した大林宣彦監督の遺作となった本作は、彼が12年ぶりに自身の生まれ故郷である広島県尾道市でロケを敢行した作品とのこと。2012年の『この空の花 長岡花火物語』以降、大林監督はデジタル撮影/編集を取り入れ”戦争三部作”としてそのキャリアをまた一段と個性的に彩られましたが、本作は完全にその地続きにある作品でほとんど”戦争四部作”だと言っても過言ではありません。本作は「主人公たちが戦争映画に吸い込まれる」という単純明快なプロットにより、動乱の幕末から世界大戦に至るまでの「歴史」、目の前で人が無惨に死んでいく「残虐性」、理性を失った人間による卑劣な蛮行の「非人道性」、幾度もの争いに巻き込まれ続けた民間人たちの「不条理性」など、あらゆる意味での「戦争の悲惨さ」をこれまで以上に多角的・多面的に捉えられています。パートごとに入れ替わる3人の主人公はそれぞれ物語のトーンに合わせた個性的な演技を見せていますし、各々が出会い惹かれ合う3人の女性もまさに”大林ヒロイン”たる見事なハマりっぷりです。また本作は「戦争の歴史」と同時に「映画の歴史」を復習うような一作にもなっており、長きに渡るキャリアの最終作にしてもなお超実験的な試みやアバンギャルドさにも満ち満ちています。このヤンチャな精神とアグレッシブな演出、そして誰よりも真摯で誠実なメッセージ性、これらが3時間休む暇なく大炸裂している本作は、まさに”キネマの玉手箱”と呼ぶべきとてつもなくエネルギッシュな作品に仕上がっています。これぞ大林宣彦の大団円! 私自身は”戦争三部作”への思い入れが特に深く、3作に通底する「一人一人が受け止めるべき、記憶するべき、そして語り継いでいくべき”戦争”」というテーマは今でも強く心に刻まれています。そんな私にとっては本作もまた凄く大切な一作となりました。本作はまさに”大林監督が我々観客に向けた遺言”であり、エンドクレジットが流れる中「彼が後世に託したメッセージをここで絶ってはならない」と心底痛感しました。「映画で歴史は変えられないけど、歴史の未来をハッピーエンドにするのが我ら観客」、このセリフは大林作品全体に通底する彼の作家的信念でもありますし、後年ではこの作品自体の意義や価値観も更に強く見出されていくと思います。長い間本当にお疲れ様でした。 大林組への参加は決して古くはないですが、終盤で登場する窪塚俊介の貫禄がとにかく半端ない。もう完全にファンになってしまった。
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