レビュー
東西冷戦時代に、その両陣営で研究を競う、物質ミクロ化技術の秘密を握るチェコの科学者が、鉄のカーテンから亡命するが、途中で撃たれ、脳に重傷を負ってしまう。 そこで、西側陣営の軍部は治療のために情報部員や医師たちを、原子力潜水艇プロテウスに乗り込ませ、この潜航艇ごとミクロ化し、血管注射で科学者の体内へ送り込むのだった。 この映画「ミクロの決死圏」の監督は、1950年代から1980年代までの長きに渡り、ディズニー製作の傑作SF「海底二万哩」、実験的な映像表現を試みた「絞殺魔」、戦争大作「トラ・トラ・トラ!」のアメリカ側監督、南部の人種差別を描いた問題作「マンディンゴ」など多種多様な作品を発表した、希代の職人監督・リチャード・フライシャー。 この映画のミクロ化した人間が、人体に潜入し治療を行なうというアイディアは、わが日本の手塚治虫の漫画作品「吸血魔団」をベースにしていると思われるが、タイム・リミットを生かしたサスペンスやスパイとの攻防戦など、手に汗握る展開も見事だが、何より素晴らしいのは、L・B・アボットによる特殊効果だ。 「眼下の敵」での海上砲撃戦から、「タワーリング・インフェルノ」の高層ビル火災まで、ミニチュア模型や光学合成を駆使したL・B・アボットの特殊撮影は、現在の水準から見れば、ローテクニックではあるものの、その豊かなイマジネーションは普遍性があり、実に見事な出来栄えだ。 とにかく、一時間たつと縮小効果が薄れ、元のサイズに戻ってしまうという、緊迫したスリリングな状況の中、心臓を通過したりとか、異物排除のために白血球が襲い掛かかり、心拍の衝撃で潜水艇が大揺れしたりする、体内のスペクタクル・シークエンスは、ほとんど前衛的とも思える程の強烈な美術イメージに貫かれていて、見事としか言いようがない。 そして、クルーの一人が敵のスパイで妨害工作をするなどのエピソードも盛り込まれ、観ていて全く飽きさせない。 美術監督のデール・ヘネシーによる白血球や血管、巨大な模型で作られた心臓などのセットも実によく出来ていて、非常に印象的だ。 そして、何と言ってもラクウェル・ウェルチの身体にぴったりあったウェット・スーツ姿は、私を含めた男性映画ファンを大いに喜ばせてくれたと思う。 なお、この映画は1966年度の第39回アカデミー賞の美術監督賞・装置賞(カラー)と特殊視覚効果賞を受賞しています。
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