レビュー
沢島忠監督の「新選組」は、三船プロ作品で三船敏郎製作で三船敏郎主演。 要するに、三船が自分で近藤勇をやりたかったのだろう。 当時の三船プロは、時代劇映画が中心だったので、キャストは異様に豪華。 土方歳三が小林桂樹。芹沢鴨が三國連太郎。沖田総司が北大路欣也。 山南敬助が中村梅之助と、もう、キリがない感じ。   女優陣も近藤勇の奥さんに司葉子。愛人の花魁に池内淳子。その妹が星由里子。 芹沢鴨の愛人が野川由美子と、これまたキリがない。 当時の三船プロの勢いを思い知らされます。   監督は、娯楽派職人監督の巨匠・沢島忠。脚本は松浦健郎。殺陣が久世竜。 これまた、ある意味、盤石な布陣と言っていいだろう。   しかし、逆に言うと作家性の感じられない布陣とも言える。 オールスター映画で娯楽派の巨匠。 調べてみたら、この映画は1970年のお正月映画だった。さもありなん。   こういう映画って、その当時の人たちは、スターたちの競演に熱狂したのだろうけど、今の目で見るとあまり面白くないパターンが多いものだ。   近藤勇と土方歳三が、まだ多摩にいるシーンから近藤の死まで、122分で駆け足感も、一切の乱れもなく描ききる手腕はさすが。 手練の仕事だなと言う感じがします。 沢島監督は、シーンの頭に爆発シーンを持ってくるとか、なんとか画面に変化をつけて厭きさせない。 有名な、勘定方が使途不明金の責任を取らされて切腹する際、故郷からの仕送りを待つシーン。 すでに手遅れになった、故郷からの飛脚が雪の中、「開けてください!」と門を叩くシーンの美しさには、悲しみと相俟って心を打たれます。   しかし、この映画が映画史に残ったり、何度も観たくなったりする映画かと言うと、それは違う気がする。 お正月休みに大ヒットして、観客は皆満足するが、もう一回観に行こうとは思わないだろう。 それは「作家性」と言うもののせいだろう。 人は作家性を感じると、もう一回観たくなったりするものなのだ。 そういう意味では、今ひとつ乗り切れない映画では有った。   多分、当時としては、メチャクチャなオールスターぶりだと思うが、正直言って「金の取れる演技」をしているのは、三國連太郎と小林桂樹の二人だけではないだろうか。 芹沢鴨という人間の弱さと苦悩を体現して余りあるものがあり、さすが名優・三國連太郎の凄さを見せつけられましたね。 ついでながら、深作欣二監督が、生前、「柳生一族の陰謀」「赤穂城断絶」という時代劇を撮った頃、今後、撮りたい時代劇として、新選組の芹沢鴨という、破滅型の人間を主人公にした映画を撮りたいと語っていた事を思い出しましたね。 それ程、映像作家にとって、芹沢鴨という人間は、魅力的な人物像なんですね。 そして、いつも冷酷非情な「鬼の副長」役の小林桂樹は、普段はコミカルな役を得意とする俳優なのだが、「激動の昭和史 軍閥」の時の東条英機と、この「新選組」での土方歳三の演技は、演技派俳優の名に恥じない、見事な演技だったと思う。 それから、せっかく、どうしてもやりたかった近藤勇だが、三船はただ深刻ぶっているだけ。 本当に深刻なシーンと、束の間、妻子の待つ日野の家に戻った時の深刻さでは、差をつけているつもりだろうが、どうもいただけません。 いつも思うのだけれど、どうして、三船敏郎という俳優は、黒澤明の映画に出演している時と、他の映画監督の映画に出演している時の演技の出来の落差が大きいのだろう。   そして、北大路欣也の沖田総司も、当時は若手スターで爽やかな印象だったのは分かるが、「剣に爽やかに生きたい」と言うセリフはどうかと思う。 それに、肺病やみの沖田にしては、北大路欣也は、あまりにも健康的すぎて、沖田のイメージに合いません。   しかし、私の最大の不満は、結局、沢島忠監督が、アクションには興味があっても、殺陣に興味がなさそうな演出だからかもしれない。 せっかくの久世竜なので、恐らくはちゃんと殺陣をつけているのだろうが、それをちゃんと映像に定着させる、という意識が、どうも希薄だったような気がします。
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