レビュー
dreamer

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3 years ago

4.5


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イースタン・プロミス

映画 ・ 2007

平均 3.6

ロンドンの街に広がるロシアン・マフィアの影。 その犠牲となった少女の遺した手記を手にした、助産師ナオミ・ワッツは、産み落とされた遺児の身元を探したために、マフィアに追われる身となってしまう。 全編を通して非常に暗い。ましてや監督は、「ビデオドローム」や「イグジステンズ」など、肉体のグロテスクな変容に取り憑かれてきたデヴィッド・クローネンバーグですから。 何か、とてつもなく悪い予感がしてきます。 ところが、観終わって、後味はそう悪くないのだ。 それどころか、闇に沈むロンドンの片隅に咲いた一輪の花という味わいなのだ。 ただ、そうは言ってもクローネンバーグの映画だから、バイオレンスは、たくさんあって、死体の身元を隠すために、指先を一本一本切り落とす。 あるいは、トルコ風呂では、全裸の男たちが、ナイフ一本で斬りつけ、殺し合うのだ。 銃ではなく、ナイフに頼るところが、またとても怖いのだ。 だが、この映画は、実はチャールズ・ディケンズの世界だと思う。 闇に包まれてはいるが、モラルが残されている。 起承転結のついた物語を落としどころに持っていく、古風な話法もディケンズそのもの。 ナオミ・ワッツは、邪悪の詰まった箱を開けてしまったパンドラだけど、箱の底にはちゃんと希望が残されているのだ。 非情な暴力とわずかな希望の二重性を見事に表現した、主役のヴィゴ・モーテンセン、実に素晴らしい名演です。 暴力の絶えない世界の中で、倫理はどこに残されるのか。 コーエン兄弟、ティム・バートン、ポール・トーマス・アンダーソンと、優れた監督は皆、このテーマなのだ。 かねてより、クローネンバーグ監督は、善悪の彼岸で死の匂いに浸っていたわけですが、そのニヒルでシニカルな筈のクローネンバーグが、モラルと希望を探している。 実に、皮肉なものです。 かつてのクローネンバーグに比べると、甘すぎると思う人もいるだろうが、ドラマの保守性とかすかなモラルがなければ、生きている意味もないではないか。 暗い映画なのに、久しぶりに救われた気持ちになりました。