レビュー
2019年89本目は、未だ37歳にして既にその名を各映画祭にて轟かせる若き女流監督、アリーチェ・ロルヴァケルの新作『幸福なラザロ』。 聖書や神話をモチーフとしたありがちな寓話かと思いきや、予想以上に鋭いフックを脇腹に突き刺される一作で、宗教色強めだからと敬遠するのはもったいないと感じるくらいの拾い物でした。 主人公のラザロは何があっても穏やかな面持ちを崩さず、面倒な頼みごとも一手に引き受ける好青年なんですが、周りの人間はそれをちょっと見下しているんですね。また、ラザロの暮らす集落は近代にありながらも不法に農民を搾取する領主が支配を続けており、「被搾取」の立場にある人々が善意をもって奉仕するラザロを搾取しようとするマウント構造に、序盤から妙にヒリついた気分にさせられるのです。 ところがこれはほんの前振りに過ぎず、後半はまさかの展開で彼を「聖人」として描こうとするんですけれど…現代社会への批判・警鐘にしても何て残酷な筋書きなんだと心底同情してしまいました。 かつてキリストは十字架を背負って茨の冠を身につけ、傷だらけになりながらも人々のために信仰を説いたわけですが、本作はそんな「自己犠牲」が今の世界においていかに無意味であるかを物語っているかのようで…非常に鬱々とした足取りで劇場を後にすることになりました。
いいね 5コメント 0


    • 出典
    • サービス利用規約
    • プライバシーポリシー
    • 会社案内
    • © 2024 by WATCHA, Inc. All rights reserved.