レビュー
PTA最新作にしてダニエルデイルイス引退作。見事期待に応えてくれる傑作だった。 珍しく上品な雰囲気だけど、やっぱりPTA節は炸裂していた。ダニエルデイルイス演じるレイノルズは、PTA作品お決まりの変わった男。レイノルズは「ゼアウィルビーブラッド」でダニエルデイが演じた石油以外のことに一切興味がない主人公と同じで、ドレス以外は無用な些事でしかない。演技からもドレスへの執着が感じられるが、何より画面いっぱいに映る一針一針ドレスを縫っていくシーンから執着が感じられる。ここから分かるのは、PTAの“もの”(映画)への執着が表れているということ。PTA作品の主人公は全員共通して、人ではなく物を愛しているのだ。この執着心から、PTAは自分で撮影もしてしまうのだろう。 そして、そんなレイノルズの築いたものを壊そうとする者が、ヴィッキークリープス演じるアルマ。最初はレイノルズが人として怖くて、観てるこっちも落ち着かなかったけど、まさかあんな逆転劇が待ち受けていたとは。「ザ・マスター」っぽい展開で面白かった。アルマを演じたクリープスは無名の女優。レイノルズと張り合う強い女性を見事に演じている。 画面には50年代の美しい風景や衣装が映るけど、描かれる男女の関係は非常に現代的。散々ドレスについて述べたが、PTAはドレスは関係ないと言う。この映画で描きたいことは、男女の関係が家族に及ぼす影響や、健康な時は助けを求めない人が、病気などで誰かに依存することはどういう気持ちなのかということらしい。だが、ドレスを通して垣間見える映画への執着は、もはやPTAが無意識のうちにやってしまっているように思える。 関係ないとは言いつつも、この映画を語る上でドレスは切っても切れない存在。アカデミー賞を受賞しただけあって、衣装デザインが素晴らしい。当時使われていた生地をそのまま使っていて、やはりそのこだわりはPTAらしい。 また、この映画はダニエルデイルイスの半自伝的な物語にもなっている。 レイノルズがアルマに対して、規律があるこの家と生活を壊そうとしていると感じるが、まさにそれがダニエルデイの感じている引退への思いなんだろう。壊したくはないけど、最後にはそれを受け入れる姿。待たれる側から待つ側になるシーンはなんだか悲しい。しかも、こんなにもぴったりなはまり役なのに、引退を表明したのは撮影後。ダニエルデイは以前から引退のことを考えていて、彼の集大成のような今作で引退を決意したんだと思う。 現役ハリウッド俳優ではトップに位置するであろうダニエルデイの俳優人生の終止符を、とくとご覧あれ。
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