レビュー
アラサーちゃん

アラサーちゃん

6 years ago

4.0


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さよならテレビ

映画 ・ 2019

平均 3.8

これはただのドキュメンタリーと高を括って鑑賞すると、えらい目に遭う。 東海テレビ、地方局でありながら「ヤクザと憲法」「人生フルーツ」等、数々の名ドキュメンタリーを生み出したスタッフが送る渾身の一作。 〝薄っぺらいメディアリテラシーは、もうたくさん〟 「テレビの裏側で今何が起きているのかっていうことを」 淡々と読み上げられる企画書。あまりにも唐突にはじまる密着ドキュメンタリー。〝自社の報道部にカメラを入れてみた〟ぽかん、とあっけにとられる社員たち。カメラの目が気になり苛立ちを隠せない上司。 このあまりにもざっくりとしたテーマによってメスを入れられてしまうテレビ局の報道部内部だが、そこであぶり出されるものとは一体なんなのか。映し出したかったものは一体何なのか。 メディアってどうなってんの? そこで奮闘している人々を描きたい? 失態やミスを取り上げて祭り上げる? この先、このドキュメンタリーはどんな方向に向かっていくのか。 主にスポットライトを当てられるのは、三人の男たち。彼らを通して本作は報道の裏側、報道記者としての使命、テレビの存在意義について描かれていく。 ジャーナリズムを追求し、どこか俯瞰的に自社を見ている契約社員・澤村。 報道に対する意識の低さ、詰めの甘さが顕著にあらわれる若手の派遣社員・渡辺。 数年前の放送事故がトラウマになり表現することのリスクを恐れるキャスター・福島。 東海テレビは数年前、あってはならない放送事故を起こした。不適切テロップ送出事故。ありえない事故だった。事件そのものは時間と共に風化してゆくが、その場に居合わせたテレビマンたちは、いまだに癒えることのない傷と恐怖に苛まれ、もがきながら、表現する現場で今日も働いている。 「リスクを取らずに表現すること」は不可能なのか。「表現することの正しいやり方」はあるのか。永遠に答えは出ない。出口のない迷路で膝を抱える表現者の小さな背中がそこに映し出されていた。 「ドキュメンタリーって現実なんですか?カメラが入って、それって現実なんですかね」 澤村がクルーに向かい、ふいに問いかけるシーンがある。屈託なく笑いながら紡ぎ出されたその一言は素朴な疑問のようだったが、そう見せかけておきながら、実は緻密に考えつくされた最上のアイロニーであるように私には聞こえた。 テストパターンの映像からはじまるという何とも衝撃的な予告編だが、この衝撃に負けないくらいの気概が本編に詰め込まれていた。自社の不祥事を前面に押し出し、コンプライアンス的な部分まで踏み込んだ意欲作だがそういった角度とはまた違う部分ですごい。本当にすごい。すごいという言葉以外の語彙をすべて失う。 挑発。衝撃。裏切られる。フェイク。信じられない。 あらゆる言葉が頭の中を駆け巡った後、「すごい」以外に何も言えなくなった。 これはある種のエポックメイキングであり、こんなに汗臭い渾身を感じるドキュメンタリーにはなかなか出合えないだろうなと改めて思う。 良かった、すごく良かった。騙されたと思って一度観てほしい。自分の中のドキュメンタリーの概念が一気に覆されるから。