
dreamer

軍旗はためく下に
平均 3.9
昭和20年8月、ニューギニア戦線において、敵前逃亡罪で処刑された、陸軍軍曹・冨樫勝男(丹波哲郎)。 その妻サキエ(左幸子)は、亡き夫が、戦死として国に認知されず、遺族年金も貰えないことに憤り、真相を突き止めようと、戦時中の彼の戦友たちを訪ね歩く。 しかし、彼らの証言はことごとく食い違い、その中で人肉食いなど、戦場でのショッキングなあり様が、次々と明らかにされていく-------。 この「軍旗はためく下に」は、深作欣二監督が、「トラ・トラ・トラ!」の監督をすることで得た演出料を元手に、結城昌治の直木賞受賞作の原作権を獲得し映画化した、いわば自主製作的要素の濃い作品だ。 一見、戦場の苛酷な事実を露わにした反戦映画と捉えられがちだが、その奥には、やはり深作欣二監督自身の、国と戦争に対する複雑な思いが色濃く反映されている。 深作自身は、戦場には赴いてはいないが、内地で友人や知人が、敵の砲撃で命を落とす様をまざまざと目撃し、その死体の処理までさせられたのだという。 しかるに敗戦後、国は180度転換して、この忌まわしき出来事など忘れたかのように、高度経済成長の一途をたどるが、その歩みに違和感を隠し切れない深作は、徹底して夫の死にこだわり続けるヒロインに、己の心情を託しながら、戦後の繁栄の陰に埋もれていった人々の恨みを、映像に叩きつけているのだ。 戦友たちの証言が、「藪の中」のようにそれぞれ異なるという点も、戦争に巻き込まれた人の数だけ地獄があるという結論にたどり着くことは、大いに可能で、彼らにそんな苦しみを与え続ける国の暴力性、また極限状況の暴力性を否定するためには、暴力を用いるしかなかったという矛盾までをも、深作演出は見逃すことなく、それらをパワフルな描写の数々によって、まざまざと提示していく。 即ち、この映画のテーマは、反戦というよりも、むしろ暴力そのものであり、その意味ではこれ以前以後に、深作が作り続けた、一連の作品群と何ら変わりはない。 時折り、インサートされる、戦中戦後の暴力事件のスナップが、それをさらにストレートに訴えていて効果的だ。 ただし、「そうした問題意識を前面に出し過ぎるのは映画の本道ではないと悟った」と後に深作は語っているが、この作品の直後から「現代やくざ 人斬り与太」を皮切りに、実録やくざ路線へと突入し、あくまでも娯楽性の中で暴力を追求していくことになるのだ。 つまり、この作品がなければ、その後の深作映画の系譜は大いに変わっていただろうし、その点でも深作映画を語る時、決して忘れてはならない問題作となったのだ。 またこの作品は、ヒロイン映画としても絶品の味わいを持つ秀作で、左幸子という演技派の名女優が演じるヒロインが、夫の死の真相を追い求めていく執念が、結婚後たった半年で、夫を国に奪われた悔しさの裏返しなのは明白だが、逆にその悔しさこそがバネになって、戦後も夫を愛し、生き続けてきたという、心の奥底に眠ったまま、気付くことなき複雑な思いまでをも、見事に体現している。 浴衣姿で海岸の波打ち際に、体を預け揉まれながら絶叫する彼女の姿からは、まさに深作映画のヒロインとして、最高峰とも言える情念が輝き、発露していたと思う。