レビュー
星ゆたか

星ゆたか

3 years ago

3.0


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リコリス・ピザ

映画 ・ 2021

平均 3.4

2023.2.15 1973年の米国LAのフェルナンド・バレーでの、15歳の青年と25歳の女性の恋を絡めた青年達の社会自立の物語。 タイトルの「リコリス・ピザ」は69年の南カリフォルニアにオープンしたレコードチェーンの名前だそうだ。 監督はポール・トーマス・アンダーソン(70年生まれ)さん。 「マグノリア」(99)「ファントム・スレッド」(2017)が好き。「ザ・マスター」(12)は近いうちに見るつもり。 本作の監督・脚本の着想は3つ。 1つ目は20年位前に、15歳の少年が写真撮影のスタッフの年長の女性に、熱心に電話番号を聞いている光景を見かけ印象的な思いを受けた。 2つ目はゲイリー・ゴーツマンという元子役で、ウォーターベット会社やピンボール店をスタートさせた人と親しくなったこと。 3つ目はハイムという三人姉妹バンドと6~7年前に創作活動の関係性が始まったこと。 だから本作はこの3つの事柄を『カクテルシェイカーに入れて、混ぜ合わせてベルモットを少しと、レモンをひとかけら加えたようなものです。』と監督は語っている。 主人公の15歳の青年ゲイリーを演じたのは、クーパー(アレクサンダー)・ホフマン(03年生まれ)。 あの14年に46歳で亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンの息子さん。 母親は衣装デサイナーをしているというから、その体型や雰囲気で裕福なお育ちかなという印象。 また彼が恋い焦がれる25歳の女性役には、ロックバンド「HAIM」のボーカル、 アラナ・ハイム(91年生まれ)。 劇中俳優エージェントの面接年配女性に、『ユダヤ人っぽい鼻ね』と言われる。 映画の中でその彼女の見せ場の1つ。 運搬車のバック運転。 坂道をガス欠の状況のため逆走行する。この運転のために3ヶ月間練習したとのこと。歌手なのに専門代役を立てずに。 ただこのお二人の一見見てくれは、平凡でどちらかというと普通の恋愛物なら、脇役俳優という位置ではないだろうか。その辺を親しみ安さととるか、あるいはせっかくの映画の夢・楽しみのため美男美女のラブストーリーを見たいと思うかがこの映画の好みの分岐点。 しかも監督の本物らしさを出す演出として、基本はノーメイク。 第三者に一目惚れ状況を納得させるためには弱くないか。つまり彼が彼女に一目惚れしたということは、好みがもちろんあるのだけれど。彼女の中に見えない自分との個人的な共有性を感じたからであって、それは全ての人を納得させる“一目惚れ”という言葉では済ませられない情感で。一緒に行動して生まれる人情のような感情の前に、すでに存在する理屈ではない惹かれる関連性だ。 だから見ための好きずきだけは、あくまでも個人個人違うだろうけどと考えた上で。他人がいくら言っても、あるいは本人が理性では分かっていても“離れられない関係”が実際あるということだ。 監督演出として役者のセリフ回しも、即興演技のその人らしさを出させるための微調整をしたと。 それは俳優が映画に合わせるのでなく、映画が俳優に合わせるという哲学からですとの事。 そして作風構築のために、古い新聞からのインスピレーションや。 映画「アメリカン・グラフィティ」(73:ジョージ・ルーカス監督)の世界観があったとも言う。 15歳の男性と25歳の女性の恋愛を成立させるための生活心情観は。 少年の方の環境が母子家庭の影響か、早くから自立していて。 映画やテレビの子役俳優の仕事や、母親の企業広告の仕事のサポートなど。 生活基盤が年齢のわりにしっかりしている。母親と息子の関係も見た感じサバサバしている。必要な所だけ助けあい、あとは親子なのにプライバシーを尊重しているというか、深入りしない。こういう親子関係なら子供は早く自立するしかないだろう。 そこへいくと年長の女性の方は、写真撮影の補助の仕事で、時々年上の男性カメラマンに尻をひっぱったかれたりして気は進まないが、生活のため仕方なく続けている。 父親は厳格、姉妹は母親にべったりという感じだ。 一度ゲイリーの仕事俳優仲間の青年を家に招くが、ユダヤ人だけど無心論者だから付き合いは駄目だと父親に突き帰えされた。 だから“年下の男の子”の始めたウォーターベットの販売にも本腰を入れて協力する。さらにそのための営業活動に必要な演技力のためだと、俳優エージェントの面接にも意気さかんに出向く。 年下の彼に『僕は君を忘れない、君も僕を忘れない』と言われる。 この後もまず彼女は人生の自立のために新たに政治の世界に首を突っ込んだ。 知人の紹介で市長再選活動のためのボランティアの仕事。ここで経験する市長の同性愛スキャンダルを暴こうと動く人の気配の気づき。常に足の引っ張りあいの政治の世界を見聞する。 さらにこの映画は実在の人物、映画俳優(ウィリアム・ホールデン)・監督(マーク・ロブソン)・プロデューサー(ジョン・ピーターズ)などをモデルにした物語でその配役に。 ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラットリー・クーパーなどの豪華な顔ぶれを配している。 しかしその実在の人物に馴染みのない、特に日本人の観客にとっては、少なくとも私には、この展開の描写にはいささかドラマが空回りしている印象を受けた。 ともかくこれらの人間関係の変化は、結局の所二人の恋愛成就と未来の生き方の選出のために、必要だったってことで。 そのお互いの環境、人間関係の変化のたびに、この二人はとにかく物語の中でよく走る。走る🏃。 右から左から映画の画面狭しと 時間空間を、全力で走る。走る。走る。 そして歓喜高まる心と体を再び得て、 感情のすれ違いから一時は分離した、 お互いの必要性を、最後にようやく確かめ認め合うことが出来た。