レビュー
この作品、間違いなく賛否が割れますよね。僕は完全に「イエス!」。 全てのショットの隅々までみなぎる熱量が圧巻。話はシンプルなんだけど、複数の時間軸がカットバックで激しく入り乱れ(観る人はこれ知っといたほうがいいですね)、全体を通して浮かび上がるのは、言わば地方都市曼荼羅。見終えた観客が心の中で映画の余白を埋めて完成させるタイプの映画です。 どこまでも高い建築物もない空は広く、ほんのりと空気が薄くて、ゆるーく窒息しそうな、地方都市のあの感じ。緩やかに街全体を覆う何かの"圧"。そこに出てくるのは、マイルドヤンキーに、愛を求めてばかりのユルい女、引きこもりがちの男、そして、実家と職場(どちらも地味に終わってる感が凄い)を往復し、熱をなくしたようなハルコ。行く先々で出会うのは、いつもの顔、見覚えのある顔ばかり。皆、人生の先の先まで見えちゃって、さえない毎日を送ってます。バンクシーの映画(ですよね?)に触発された若者たちは、真似をして街じゅうに失踪したハルコの顔をマーキングするけれど、それはラクガキでしかなく、街に漂う"圧"のなかでもがいているだけで。 そんな中、異彩を放つ少女ギャング団は、日常に堆積する同調圧力やジェンダーに関わる閉塞感を打ち破るがごとく、軽やかに夜の街を駆け抜け、通り魔的に男たちをボコボコにしていきます。それは、ハルコが選べたかもしれないもうひとつの人生のメタファー、ファンタジーです。 ラストで、自分でも思わぬ落涙。何かを突き抜けたかもしれない、生きていけるかもしれない、っていう主人公たちの救済に涙したのかな。よく分からない涙だし、そもそも救済かどうかも分からないないのだけれど。でも、容易に言語化できない何かをもたらす映画って、映画的純度がすごく高いと思ってて、だから僕は、この映画に「イエス!」です。 蒼井優はいつものように低温な芝居で、微妙な感情でのセックスとか、後半のイタい感じとか素晴らしいですよ。高畑充希はこんなに本気な女優さんと思ってなかったごめんなさい。あと、山田真歩がすっかり名脇役としての地位を確立してて、嬉しい。
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